研究課題/領域番号 |
18K11128
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
水上 洋一 山口大学, 大学研究推進機構, 教授 (80274158)
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研究分担者 |
大塚 正人 東海大学, 医学部, 教授 (90372945)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 卵巣 / 老化 / ゲノム編集 / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
世界の先進国では少子高齢化が進行し、中でも日本の少子高齢化は最も顕著である。このため労働力不足を補うため、女性が社会進出し、晩婚化・不妊症の増加を招き、労働力人口は負のスパイラルに陥っている。労働力問題を解決するには高齢者でも安心して出産できる科学技術の提供が求められる。女性の卵巣に存在する卵子は、出生前に造られ、2次性徴に伴って卵子が成熟し排卵を始める。その後、35歳前後から急激に排卵が低下し、高齢での不妊の原因になっているが、卵子(原始卵胞)は卵巣に存在しており排卵機能の制御によって高齢出産は可能である。しかし、この卵巣老化によるシグナル経路を網羅的に解析した研究はなく、シグナル経路の全容は全く不明のままである。 高齢者は卵巣に卵子があるにも関わらず不妊になっており、老化による排卵障害の解明が不妊症対策になる。研究代表者らは、老齢マウスの卵巣での全遺伝子発現を性周期毎に解析した結果、排卵ホルモン応答初期に活性化される経路が大幅に低下していることが明らかになった。そこで、このデータを基に老化マウスの卵巣細胞プロファイリング分析を行い、排卵障害を引き起こす遺伝子・細胞を解明している。この老化に関連する遺伝子は夾膜細胞に主に発現しており、性周期ホルモンの代謝経路に密接に関わっていることが明らかになっている。そこでレーザーマイクロ大セクションを用いて夾膜細胞だけを分離し、老化と夾膜細胞特異的な遺伝子発現のパターンを解析した。その結果、夾膜細胞での遺伝子発現が老化によって急激に低下しておりこれが性ホルモンの代謝に関与していることが明らかになった。そこで、KOマウス作製が可能な画期的な技術であるGONAD法でのゲノム編集技術を用いて、排卵障害の候補遺伝子群を欠失したマウスを作製し、出産数や卵巣組織を観察することで老化による排卵障害のメカニズムを完全解明している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者らは年間200以上のサンプルを4台の次世代シーケンサーで解析しており、RNA発現などの解析を実施した。特にSAGE解析は卵巣組織の網羅的遺伝子発現解析に成功している。さらに卵巣組織を卵胞単位に分離する技術も確立しており、レーザーマイクロダイセクション(ライカ現有)と組合せることで、正確に分離できる。微量のRNA抽出でもQiagen、KantoChemical やTakaraなど多くのキットでテストした結果、SMART-seq V4でRNAを相関係数0.95前後で均一に増幅できることを確認している。また、研究分担者でありGONAD法を開発した大塚准教授の指導を受け、 妊娠マウス卵管に直接キャピラリーを挿入し受精卵へ蛍光色素導入を行った。その結果、50%の受精卵で蛍光色素の導入が確認され、CRISPR 関連核酸に置き換えることでゲノム編集マウスが誕生した。このマウスを使って表現型の解析が終了した。
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今後の研究の推進方策 |
ゲノム編集マウスで観察された表現型が正しいかどうかを確認するため、老齢マウスとゲノム編集マウスを用いた次世代シーケンス解析を行う。NGSシークエンス解析のRNA-seq解析の結果からパスウェー解析を行い、ゲノム編集マウスでの標的遺伝子の欠失が老化にどのような役割を果たしているかを解明する予定である。さらに老化の標的となっている遺伝子のゲノム編集をマウスでのノックアウトマウスを作製し機能を詳細に解明する予定である。また、これらのマウスの血液を採取し血中に放出されている小胞の遺伝子解析を行い、老化の指標として活用できるかどうかを詳細に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスのPCR検査の依頼が大量にあり研究時間を確保することが困難であった。また、新型コロナウイルスのために共同利用施設の利用が制限や動物施設の寄生虫感染の事故の発生で実験に用いる十分な量のマウスを飼育することが困難であった。
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