研究課題/領域番号 |
18K11133
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
坂尻 徹也 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 客員研究員 (40412928)
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研究分担者 |
生田 克哉 旭川医科大学, 医学部, 客員教授 (00396376)
乾 隆 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (80352912)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | セルロプラスミン / トランスフェリン / 亜鉛 / 鉄 / 亜鉛結合セルロプラスミン / セルロプラスミンートランスフェリン結合 |
研究実績の概要 |
世界保健機構(WHO)により潜在性鉄欠乏の有病率は世界人口の約 65%と亜鉛 欠乏者は世界人口の約 25%と試算されており、鉄欠乏貧血者の多くは亜鉛欠乏を併発していることが報告されている。慢性腎臓病(CKD)の透析患者は重度の鉄欠乏性貧血かつ亜鉛欠乏であることが報告されている。亜鉛補充療法により血清鉄濃度が回復することが最近福島らにより報告されている。しかしながら、鉄欠乏性貧血と亜鉛欠乏の関係性については、分子レベルにおいてほとんどわかっていない。 我々はセルロプラスミン(Cp)からトランスフェリン(Tf)への鉄イオン移動に亜鉛イオンが必要なことを発見した。このことから亜鉛欠乏状態になると生体内の鉄が利用しにくくなり、鉄欠乏性貧血を引き起こしやすくなることが考えられる。本研究の成果は、亜鉛欠乏性貧血の病因解明や治療法の開発・創薬につながることが期待される。本研究では鉄代謝経路にどのように亜鉛が関わるかについて、さらに発展させる。 具体的な計画として、1.血清および血漿においてCpからTfへの鉄移動に亜鉛が関わるかについての調査、2.亜鉛結合 Cp と Tf の複合体における結合サイトおよび構造解析、3. Cp 経由のフェロポルチン(Fpn)から Tf への鉄イオンの移動経路の解明と亜鉛イオンとの関係性。を期間中に行う。 本研究の解明により、現在透析患者の貧血解消のために高価なエリスロポエチンが使用されているが、安価な亜鉛補充療法で同等な効果が得られるならば医療費の大幅な削減に貢献することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画1の臨床に近いヒトの血清および血漿においてセルロプラスミン(Cp)からトランスフェリン(Tf)への鉄の移動に亜鉛が関わるかについて調査した。 CpおよびTfとの結合について表面プラズモン共鳴(SPR)および等温滴定型熱量測定(ITC)により詳細に調べた。亜鉛フリーの状態では、CpおよびTfとの結合をSPRおよびITCともに見出すことができなかった。亜鉛イオンを20µL加えた状態では、CpおよびapoTfでKD = 4.2µM結合することわかった。一方、亜鉛イオン20µL加えた状態で、CpとFe2Tfとの結合は非常に弱くなることがわかった。このことから、CpからapoTfにFe(III)が移動したのち、Fe(III)2Tfに構造変化したあと、CpはFe(III)2Tfから離れることがわかった。 次に血清および血漿を使用し、CpからTfへの鉄の移動を調べた。血清および血漿の亜鉛濃度を減少させるために、金属キレーターを血清および血漿に加え金属イオンを抜いたあと、亜鉛以外の他の金属イオンを補充した。この亜鉛除去処理した血清および血漿を使用し、CpからTfへの鉄の移動を調べた。鉄Tf濃度を測定したところ、亜鉛を加えないものは加えたものと比較して約61%しか生成されないことが分かった。血清および血漿においてもCpからTfへの鉄の移動に亜鉛イオンが必要なことが分かった。 次にTfと結合しなかった鉄の行方について調べた。非トランスフェリン結合鉄(NTBI)の測定を離床検査的方法で測定を行った。亜鉛除去処理した血漿のNTBIを測定した結果、NTBIの増加することがわかったした。本研究成果は8th International Conference of Bioiron Societyおよび日本鉄バイオサイエンス学会において報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の主な予定として、本研究成果である血清および血漿における亜鉛結合CpとTfへの鉄移動について国際雑誌に投稿中である。 また、研究計画2の亜鉛結合 Cp と Tf の複合体における結合サイトおよび構造解析の研究を行う。事前研究において、等温滴定型熱量測定(ITC)によりCpは1つのTfに対して2つ結合することが判明している。TfにはNとCの二つの鉄結合サイトが存在しており、結合サイトの配列相同性は高く構造が近い。また、Tfと配列相同性が高いラクトフェリン(Lf)もCpと相互作用することが報告されており、小角X線散乱により複合体構造が推測されている。 研究計画2の亜鉛結合 Cp と Tf の複合体における結合サイトおよび構造解析を行うために ITCによりCpとTfの結合状態を調べる。さらに小角X線散乱によりCpとTfの複合体構造予測を行う。 研究計画3のCp 経由のフェロポルチン(Fpn)から Tf への鉄イオンの移動経路の解明と亜鉛イオンとの関係性を調べるためにフェロポルチン発現細胞とセルロプラスミンとの相互作用解析を行う。 課題点として、CpとTfとの結合が非常に弱く一過性の結合であることがITCや表面プラズモン測定(SPR)が考えられる。そのため安定な複合体構造を作っていない可能性が高く小角X線散乱により測定することが困難であることが考えられる。そのときはリンカーなどでCpとTfの結合を安定にさせるなどの工夫を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際誌の投稿掲載時に必要な経費でしたが、年度内に掲載まで至りませんでした。次年度掲載時に使用する予定です。
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