研究課題/領域番号 |
18K11135
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
早川 枝李 自治医科大学, 医学部, 助教 (00383753)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膜タンパク質 / PUFA(多価不飽和脂肪酸) / 脂質膜の物性 / 脂質分子間側方ストレス / 膜タンパク質の配向性 / 膜タンパク質の活性と構造変化 |
研究実績の概要 |
多価不飽和脂肪酸(PUFA)は生体組織や細胞において、膜分裂や膜融合時の構造決定、分子の局在決定など、生物学的に重要な因子として機能していることがわかってきた。本年度は膜タンパク質の活性に対する不飽和アシル鎖の影響をダイレクトに評価することを目的とした。具体的には、リン脂質で構成した脂質二重膜(リポソーム)に膜タンパク質を再配向させ、そのときの活性変化を、異なるアシル鎖をもつリン脂質ーliposomenにおいて比較検討した。その結果、2本のアシル鎖のうち1本のみをPUFAに変えたリン脂質でliposomeを作成したときと、2本のアシル鎖共に二重結合を1つ持つリン脂質でliposomeを作成したときとでは、再配向させた膜タンパク質の「向き」が異なることが、実験から初めて明らかになった。過去、本実験結果のような、liposome膜に再配向させた膜タンパク質の「向き」をアシル鎖の構造と関連づけて明らかにした例はなかった。タンパク質のliposome膜への再配向に関する実験では、ほとんどの研究でタンパク質の配向性を決定する実験方法がなく、「向き」を無視したまま議論が進められてきたが、本研究実績は多価不飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸が膜タンパク質に及ぼす影響として、タンパク質の活性に直接結びつく「配向性」に対する影響を初めて明らかにしたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予想ではリン脂質のアシル鎖に含まれる二重結合数、二重結合の位置、アシル鎖長(アシル鎖の長さ)などの複合的要因で発生する脂質分子間パッキング条件が、膜タンパク質の活性、さらには膜タンパク質の開閉状態への影響評価を行うことを計画していた。そしてこの実験については、申請時から米国の共同研究者の研究室に行って実験を行うことにしていたが、一昨年からのコロナ禍の影響で海外出張にいけない状況が続いており、本実験については遅れが発生している。 一方、本年度は予想外の研究結果を得ることができた。脂質二重層膜(liposome)に膜タンパク質を再配向させた場合、その配向性は一様、もしくは半々(liposome膜に外向き、内向きの双方)に配位すると考えられてきた。そのように考えられてきた理由の1つは、膜タンパク質がどちら向きに配向しているのか調べる手段がないことが大きな理由であった。今回、同じ極性頭部をもつリン脂質でアシル鎖を1本だけPUFAに変えたところ、二重結合を1つ持つだけの脂質で作成したliposomeと比較し、膜タンパク質の配向性が変化していたことを実験で明らかにした。これは当初の目的としては考えていなかった結果であるが、逆に、アシル鎖の違いによるリン脂質膜中の側方ストレスの違いにより膜タンパク質の配向性が変化することを実験で示した初めての結果となり、非常に興味深い。
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今後の研究の推進方策 |
計画当初、予想していなかった“脂質アシル鎖に存在する二重結合数の違いによる膜タンパク質の再配向性への影響”を発見したことで、脂質膜中のFree volumeや側方ストレスなどの物理化学的因子の違いによって誘導されることを実験で証明するために、以前から計画していた米国の共同研究者のLabに行き、アシル鎖の違いによる脂質間free volumeや側方ストレスの違いについて測定を行う。コロナ禍がしばらく続いているが、なんとか渡航にこぎつけたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で実際に行うはずの実験ができていないため、その実験に必要な消耗品の購入予算(残金)を次年度使用とした。
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