妊娠中に母親が高血糖状態であると、子宮内では胎児が高血糖環境に曝され、生まれた子どもには巨大児や心肥大などのさまざまな合併症を発症することが報告されている。そこで、子宮内高血糖環境が胎児期の脳神経の発生にどのような影響を及ぼすかについて、細胞モデルを用いて解析した。さらに、機能性脂質であるn-7系不飽和脂肪酸が高グルコース環境で培養した神経細胞に対して改善効果を有するかを検討した。糖尿病妊娠ラットを作成し、胎児から摘出した脳について解析した。糖尿病妊娠ラットから生まれた仔(IDM)の大脳皮質ではコントロールラットから生まれた仔と比較してタンパク質のAGEs化が促進し、Akt473のリン酸化レベルが低下していることが明らかとなった。GDMモデル細胞では、PC12細胞を高グルコース培地で7日間培養した結果、コントロール培地と比較して、AGEsおよびRAGEが増加し、Aktのリン酸化レベルが低下した。炎症シグナルのJNKのリン酸化レベルの増加に伴い、細胞内活性酸素種(ROS)レベルが上昇することで、BaxやCleaved caspaseの発現が増加し、アポトーシスが誘導された。さらに、GDMモデル細胞にn-7系不飽和脂肪酸のCPA、TPAおよびn-3系不飽和脂肪酸のEPAを添加した場合、高グルコース環境により産生されたAGEsの低下に伴い、炎症シグナルを介したROSの産生は低下し、アポトーシス細胞の誘導は抑制された。これらの結果から、GDMの胎児にとって妊娠中の高血糖環境は神経細胞のプログラム細胞死を引き起こすが、母親が胎児期に体内で合成できないTPAを含む乳製品を摂取することで、シグナル異常やアポトーシスを回避できる可能性が示唆された。
|