研究課題/領域番号 |
18K11137
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
鈴木 良雄 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 教授 (30612395)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フェニルアラニン / 脱炭酸 / アミノ酸バランス / HEK293 / 大腸菌発現系 |
研究実績の概要 |
生体内の遊離アミノ酸濃度にはそれぞれのアミノ酸に標準範囲(アミノ酸バランス)があることが知られており、アミノ酸濃度のインバランスと体調や疾病との関連が注目されている。一方、アミノ酸必要量を測定する指標アミノ酸酸化法(IAAO法)では必須アミノ酸バランスの不均衡に応答したフェニルアラニン(Phe)の脱炭酸を測定している。このように生体内でアミノ酸バランスが保たれていることは当然のことと考えられているが、アミノ酸バランスの認識・生成のメカニズムはまだ明らかとなっていない。 一方、ドーパ脱炭酸酵素(DDC)もPheの脱炭酸を行うことが知られているが、発現しいている組織が限られており、全身でのアミノ酸バランスに応じたPhe脱炭酸に関与しているとは考えられない。 そこで、アミノ酸バランス認識・生成機構を探るための糸口として、機能未知の脱炭酸酵素ドメインを持つタンパクPDXDC1とPhe脱炭酸との関係を検討する。 本研究ではPDXDC1がアミノ酸不均衡に応答してPheを分解する経路に関与していることを明らかにするとともに、その調節機構を検討することを目的とするが、これまでにヒト胎児腎細胞由来HEK293細胞について、DDCを発現していないことPCRで確認し、siRNAによりPDXDC1をノックダウンするとPhe脱炭酸が抑制されることから、PDXDC1がPheの脱炭酸に関与することを確認している。また、HEK293細胞で発現しているPDXDC1をpET28aベクターにクローニングし、全長及び脱炭酸酵素ドメインのみの大腸菌での発現系を確立した。 また、PheNH2をo-フタルアルデヒド(OPA)により誘導体化せずに分析する条件を検討し、HPLCで水酸化アンモニウムを含む塩基性溶出液で分離し、UV及びMSで検出できる条件を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2018年度まではPheの脱炭酸で生じるフェネチルアミン(PheNH2)をo-フタルアルデヒド(OPA)によりポストカラムで誘導体化しHPLC(UV及び蛍光)で検出していた。2019年度は反応生成物のMSによる確認を試みたが成功していない。大きな原因はLC/MSの故障であり、修理、代替機種の確保に大きく時間を費やした。また、OPAによる反応生成物の安定性に問題がある可能性もあるので、PheNH2を直接検出するHPLCの条件を検討し、水酸化アンモニウムを含む塩基性溶出液で分離し、UV及びMSで検出できる条件を確立した。 上記と並行して、PDXDC1の発現の確認を行った。PDXDC1は、RNAレベルでは、ヒトでもマウスでもすべての臓器で、ほぼ同レベルで発現(ESTおよびGeneChip)するとされているが、個体での各種臓器の発現をタンパクレベルで調べた報告はない。一方、DDCは腎臓では発現が高いが、他の臓器では弱いとされている。そこで、マウス5週齢のICR系雄性マウスから肝臓、腎臓、小腸、心臓、腓腹筋を採取し、ホモジネート25 microgramをウェスタンブロッティングに供し、PDXDC1とDDCのタンパクレベルでの発現を比較した。PDXDC1は肝臓、腎臓、小腸では予想される87 kDaのbandが確認できたが、心臓、腓腹筋では確認できなかった。一方、DDC(54 kDa)は肝臓、心臓で強く、腎臓、小腸、腓腹筋での弱いがbandが確認された。PDXDC1もDDCもポリクローナル抗体を使用したため、違う大きさのbandも確認された。これらがPDXDC1あるいはDDCのvariantであるかどうかは現時点では不明である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでOPA誘導体で確認していたものがPheNH2であったことをLC/MSにより確認する。次いでE.cioli発現系での活性の確認、基質特異性(Phe, Tyr, Trp, His, Dopa)の確認を行う。また、、HEK293細胞で培地の必須アミノ酸バランスを不均衡にしたときのPDXDC1の、(1) 切断による大きさの変化、(2) リン酸化(Ser/Thr、Tyr)および (3)ニトロ化(Trp、Tyr)状態の変化を検討する。切断あるいは修飾が起きていた場合には、切断あるいは修飾されたPDXDC1を二次元電気泳動で回収し、トリプシン等による限定加水分解の後LC/MSにより、切断部位や修飾部位を特定する。 次いで、(4) 結合もしくは解離する補助因子があるかを、活性化状態と非活性化状態のPDXDC1を免疫沈降しLC/MS等により確認する。 上記により、アミノ酸バランスに応答したPhe脱炭酸におけるPDXDC1の役割とそのメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
故障したLC/MSの修理、代替機種の確保に多くの時間を費やしたことと、台風による停電で培養・保管していたHEK293が死んでしまったことにより、酵素特性の検討や細胞レベルでの挙動の研究がストップしたために次年度使用額が生じてしまった。2020年度はE. coliで発現させたPDXDC1の精製と酵素特性の解析と並行して、HEK293細胞で培地の必須アミノ酸バランスを不均衡にしたときのPDXDC1の挙動の検討を進める予定である。
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