研究実績の概要 |
本研究では、脂肪細胞機能における糖鎖の役割を、特に肥満による変化に着目し解析を行ってきた。これまでに、肥満マウス脂肪組織において糖転移酵素St6gal1(糖鎖末端にα2,6シアル酸を付加する酵素)の著しい低下を確認した。その後、シアル酸の外因的増加による肥満抑制の可能性を検討するため、肥満モデルマウスを用いてシアル酸の経口投与による影響を解析してきた。シアル酸は、体内代謝が迅速で急速に尿中に排泄されることから、経口ゾンデによる1回/日の投与では影響が出にくいことが見いだされたことから、今年度はシアル酸の体内濃度がある程度保たれるよう、実験飼料に1%シアル酸添加し、シアル酸経口投与の影響を検討した。結果、高脂肪食により誘発した肥満モデルマウスと比較し、1%シアル酸を加えた高脂肪食を与えたマウスでは体重増加、精巣上体周囲脂肪(EATs)蓄積が有意に抑制された。さらにシアル酸経口投与は、高脂肪食により誘発される総コレステロール、LDL-コレステロール、中性脂肪の上昇を有意に抑制した。よってシアル酸の経口投与は、肥満抑制効果、肥満関連疾患予防効果に有効である可能性が示された。rt-PCRによりEATsの脂肪細胞分化関連酵素、脂肪生成関連タンパク質等の遺伝子発現について解析した結果、高脂肪食によるCebpb、Fabp4の上昇およびAdioqの低下がシアル酸投与により抑制された。肝臓では高脂肪食により増加した脂肪滴が、シアル酸経口投与により有意され抑制され、これはシアル酸によるSod1遺伝子発現量増加が関与すると推測された。一方で、シアル酸経口投与によりEATsでは、インテグリンβ1を含めたシアル酸付加タンパク質への影響は認められなかった。よって、肥満抑制、EATs増加抑制には、脂肪細胞におけるシアル酸付加タンパク質は関与していないことが示された。
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