本研究では、高血圧症の新たな予防活動に資するエビデンスの構築を目的とした。具体的には、高齢化の進展が著しい地域に居住する住民を対象として健康調査を実施し、「地域における人間関係の特質」と定義したsocial capital(以下、ソーシャル・キャピタル)と高血圧症の関係を検証するとともに、今後の地域における高血圧症の予防活動のあり方について検討を行った。その結果、従来の個人要因へのアプローチ(例:食塩摂取量、適切な運動習慣)が高血圧症の予防に一定の効果を有することが考えられる一方で、その効果はソーシャル・キャピタルの状況によって変化する可能性が考えられた。言い換えると、ソーシャル・キャピタルの存在が、高血圧症の予防に資する個人の適切な生活習慣を支える一助になっている可能性が考えられた。その理由としては、これまでのソーシャル・キャピタルと健康のメカニズムに関する包括的な議論で指摘されてきた(1)適切な情報の伝播、(2)健康行動を継続する上でのサポートとしての役割を果たしている可能性が考えられた。以上の知見を踏まえると、今後の地域での高血圧症の予防活動においては、いかに個人の生活習慣を適切に維持・改善するかという視点に加えて、どのように地域の人間関係を構築するかという視点も有益であることが考えられた。また、本研究は、自治体で実施している特定健康診査(以下、特定健診)の場との共同で健康調査を実施した。特定健診への受診は、自身の健康を管理し、適切な生活習慣の獲得を支える上で重要な場である一方で、依然として受診率の向上が課題となっている。そうした中で、ナッジ理論を活用した取り組みは、住民の受診率の向上に寄与することが考えられ、今後は、こうした視点も踏まえ、地域において自治体、住民、専門家の連携に基づく取り組みが高血圧症の予防に有用であることが考えられた。
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