研究課題/領域番号 |
18K11144
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
柳田 昌彦 同志社大学, スポーツ健康科学部, 教授 (40251128)
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研究分担者 |
若原 卓 同志社大学, スポーツ健康科学部, 准教授 (20508288)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 複合運動療法 / 順序性 / 地域在住高齢者 / 無作為化比較試験 / 動脈スティフネス / 1RM / 生活体力 |
研究実績の概要 |
本研究では,地域在住の高齢女性を対象に,有酸素運動とレジスタンス運動の複合運動療法における強度や順序性などの質的条件が,肥満度,骨格筋量,動脈スティフネス(脈波伝播速度),骨密度,生活体力などに及ぼす影響について無作為化比較試験を用いて検討した。 地域在住高齢女性56名を対象として,有酸素運動+低強度レジスタンス運動群(AR-L群;10名),低強度レジスタンス運動+有酸素運動群(RA-L群;12名),有酸素運動+中高強度レジスタンス運動群(AR-M群;12名),中高強度レジスタンス運動+有酸素運動群(RA-M群;11名),トレーニングを実施しない群(CON群;11名)の5群に無作為割付けした。有酸素運動は,自転車エルゴメータを使用し,60% 心拍数予備量の強度で20分間実施させた。また,レジスタンス運動は,5種目を中高強度群は70~80%1RM,低強度群は40~50%1RMで,20~30回反復,2~3セット実施させた。いずれのトレーニング群も週2回,10週間実施させた。形態計測,生活体力測定,骨密度測定を行い,動脈スティフネスは心臓足首血管指数(CAVI)を測定した。 形態計測においては,体重がAR-L群とAR-M群のみ有意に低下した。生活体力においては,AR-L群とRA-L群の低強度群では10m歩行速度のみ有意に向上したが,AR-MとRA-Mの中強度群では握力,10m歩行速度,ファンクショナルリーチが有意に向上した.全トレーニング群において,全種目の1RMが有意に増加した.CAVI及び骨密度においては,いずれの群においても変化が見られなかった。 以上の結果から,複合トレーニングを地域在住の高齢女性に実施させる場合には,順序性が形態や体力,骨密度,動脈スティフネスに違いを引き起こさないが,レジスタンス運動における強度の違いが動的バランスに異なる影響を与える可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究費の申請を行った時点では,2年目の検討課題として以下の内容を記載した。 【課題2】2年目は,男性高齢者を対象に複合運動療法におけるレジスタンス運動の強度の違いが動脈スティフネスや骨格筋機能などに及ぼす影響について無作為化比較試験を用いて検討する。また,それらのメカニズムについても検証する。 昨年度は,地域在住高齢男性45名を対象として,有酸素運動とレジスタンス運動の複合運動療法における順序性について,形態や動脈スティフネス(頚動脈-大腿動脈間脈波伝播速度),血管内皮機能(血流依存性血管拡張反応),筋肥厚,筋力(1RM),生活体力などを指標として検討し,雑誌論文や学会発表によって成果を公表することができた。 また,今年度は地域在住高齢女性56名を対象として,昨年度と同様に有酸素運動とレジスタンス運動の複合運動療法における順序性について性差について検討し,さらにレジスタンス運動の強度の違いにも視点をおいて検討した。レジスタンス運動は,5種目を中高強度群は70~80%1RM,低強度群は40~50%1RMで実施させた。有酸素運動とレジスタンス運動の複合運動療法の順序性と強度別を考慮した群を4群設定し,トレーニングを実施しない対照群も合わせ5群に無作為割付けした。形態計測,生活体力測定,骨密度測定を行い,動脈スティフネスを評価するために心臓足首血管指数(CAVI)を測定した。 本研究結果から,高齢女性が複合運動療法を実施する場合には,レジスタンス運動が低強度でも歩行能力や筋力を向上させることはできるが,動的バランス能力の向上には中強度以上でないと有効性が認められないことが示唆され,雑誌論文や学会発表によって成果を公表することができた。しかし,複合運動療法の順序性やレジスタンス運動の強度の違いが引き起こす影響差に関わるメカニズムについては,まだ十分な検討ができていない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究費の申請を行った時点では,3年目の検討課題として以下の内容を記載した。 【課題3】3年目は、2年目と同様の課題について女性高齢者を対象に検討する。 2年目に,既に女性高齢者を対象に複合運動療法におけるレジスタンス運動の強度の違いが動脈スティフネスや生活体力、筋肥厚などに及ぼす影響について無作為化比較試験を用いて検討したが,まだそれらのメカニズムについては十分に検証できていない。1年目と2年目とで、複合運動療法の順序性が動脈スティフネスに及ぼす影響を検討したが,被験者数による測定時間の都合で異なる検査方法を用いたため,生じた異なる結果が性差によるものなのか,検査方法の違いによるものなのかが明確になっていない。したがって,今後は女性を対象として,動脈スティフネスを評価する検査法を3種類(cf-PWV,ba-PWV,CAVI)用いて同時に検討する予定である。 また,メカニズムについては,脈波伝播速度に関わる指標としては血流依存性血管拡張反応(FMD検査)と血中の一酸化窒素(NO)やエンドセリンなどを測定する。筋肥厚に関わる指標としては血中の乳酸,成長ホルモン,テストステロンなどを測定する。測定項目が多岐にわたっているため,同時点に複数の項目を測定することになるが,もし精度の高いデータを得られにくい場合には,測定項目の選定やタイムテーブルを改善する予定である。 申請書の中では運動療法の種目として対象に入れていなかったが,動脈スティフネスに対してストレッチングのような柔軟性を高める運動が有効であるとのエビデンスが明らかになっている。そこで,本研究でも高齢者の動脈スティフネス(脈波伝播速度)と柔軟性の指標である長座体前屈の関連性について,横断的及び縦断的に解析を追加する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の支出計画では,平成30年度に「介護予防体力評価プログラム」,「超音波診断装置用消耗品」,「血圧脈波検査装置用消耗品」,「血液検査用消耗品」,「血液成分分析キット」,「FMD検査用消耗品」,「体力測定用消耗品」,「被験者謝礼」などの用途で使用することになっていた。しかし,「超音波診断装置用消耗品」や「血圧脈波検査装置用消耗品」,「体力測定用消耗品」,「血液検査用消耗品」については,過去の測定において購入しておいた消耗品が残っていたため,令和元年度に新規購入しても消費する量が思ったより少なく,その分,支出が予定より抑えられていた。 令和2年度は,メカニズムに関わる一酸化窒素(NO)やエンドセリン,乳酸,成長ホルモン,テストステロンなどを本格的に分析する予定なので,「血液成分分析キット」や「血液成分の分析委託」については支出が増加する予定である。「FMD検査用消耗品」についてもメカニズムに係る分析の一環として,令和2年度にさらに増加する予定である。また,データが蓄積され,成果発表も進展してきているので,国際学会発表の機会を増やす予定である。「被験者謝礼」については,「謝金」という直接的な金銭ではなく,QUOカードによる立替払いで対応したため「その他」の枠組みで支出された。
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