研究課題/領域番号 |
18K11151
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
古賀 弘樹 筑波大学, システム情報系, 教授 (20272388)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電子指紋符号 / 結託耐性符号 / 符号化定理 |
研究実績の概要 |
電子指紋符号はライセンスのあるディジタルコンテンツの不正コピーの流通を防ぐ技術である.電子指紋符号の枠組みでは,ディジタルコンテンツに,ユーザと1対1に対応する符号語を埋め込む.埋め込まれる符号語は,悪意のあるユーザ(不正者グループ)が複数人結託してディジタルコンテンツの不正コピーを生成しても,その不正コピーから抽出される符号語(上書きされた符号語)から不正者グループの一部または全部を特定することが求められる. 本研究では,符号語の各成分を独立かつランダムに生成する符号を考える,また,不正者グループは,自分たちの符号語から,ある条件つき確率分布(攻撃モデル)に従って確率的に上書きされた符号語を生成する.2020年度は,不正者グループの攻撃モデルが既知の場合および未知の場合について,不正者全員を特定できる計算量の小さいアルゴリズムの構築を試みた.構成した特定アルゴリズムは,各ユーザの符号語と,上書きされた符号語からスコアと呼ばれる値を計算し,スコアの大小によって,そのユーザが不正者グループに属するか否かを判定する.攻撃モデルが既知のときは,スコアは対数尤度比になり,攻撃モデルが未知のときは,ある条件つき確率分布の属を考えることによりスコアが対数尤度比の近似値となる.本研究では,不正者2名の特定失敗確率が符号語のブロック長とともに0に収束するという要請のもとで,電子指紋符号が安全に利用できるユーザ数のレート(指数部第1項)の 達成可能なタイトな上界と下界を得た.得られた量はこれまで電子指紋符号の単純容量として知られていた量と一致し,この結果は国際会議 ISITA 2020 で発表した. 2020年度はまた,この結果を,複数の不正者を一度に特定する方式へと拡張することを試みた.この結果は,2021年度中に国際会議等で公表予定である(本研究は1年の延長が認められた).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は,2019年度に得られた結果を精密化して,国際会議に投稿して採録された.理論的に少し難しいところが残っており精密化に想定外の時間がかかったことと,コロナ禍で通常とは異なる仕事が増えたこともあり,2020年度は不正者数の一般化など,さらなる拡張を行うための十分な時間が確保できなかった.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の締めくくりとして,2021年度中に行いたいことは2つある. (1) 不正者特定において,すべての符号語と上書きされた符号語を用いて,不正者全員を一度に特定する方式における符号化定理を導出し,公表すること.この特定方式の場合,達成可能なユーザ数のレートの上限は同時容量という値になり,一般には同時容量の方が単純容量より大きいため,同時容量を達成する特定器を構成することには意味がある.2020年度までの研究成果をもとに考察を続ける. (2) 2020年度に導出した単純容量に関する研究成果と,(1)で述べた同時容量に関する研究成果を,不正者数が一般のK人の場合に拡張し,論文誌に投稿すること.これまでに得られている結果は,マーキング仮定として知られている制約のもとでは,不正者数には大きく依存しないため,一般化は十分に可能である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画立案時に参加を予定していた国際会議は,コロナ禍でオンライン開催となり,外国旅費が不要になり,また,参加費も安くなった.感染拡大を防ぐため,国内会議もオンライン開催となり,国内の旅費も不要となった.研究打合せ等の出張も控えた. 2021年度は,年度後半に対面またはハイブリッドでの国際会議・国内会議が開催予定であるので,残額はその旅費および計算機消耗品の費用として使う予定である.
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