研究課題/領域番号 |
18K11152
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
天野 一幸 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30282031)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 計算量理論 / 論理回路 / しきい値回路 / 実験数学 / 整数計画 |
研究実績の概要 |
本研究は、実験数学的手法と計算複雑性理論を高度に融合した、実験計算量理論の確立を目指すものである。これに向けて本年度は、特に、しきい値回路や多数決回路といった重要な論理回路モデルに対して、当該アプローチを適用することで、様々な具体的上界および下界を得ることに成功した。より具体的な成果は以下の通りである。 1.2段のしきい値素子からなるしきい値論理回路モデルにおいて、内積関数を計算する際の計算量に関する解析を行った。特に、特殊なタイプのしきい値素子を用いた回路の構成を計算機により求め、これを一般化する新たな手法を開発し、内積関数に対する回路サイズの新たな上界を得ることに成功した。また、制約のあるしきい回路に対する回路サイズの下界導出を線形計画問題の求解へと帰着する手法を開発し、これを通じて、これまで知られるものより優れた下界を導出することに成功した。 2.前年度に引き続き2段の多数決回路を用いて多数決関数を計算する際に必要な回路サイズについて、特に、その入次数の総計に関する解析を行った。その結果、前年度に行った計算機実験から推測されたサイズの最適値に一致するサイズを持つ回路の具体的構成の発見、および、回路の構造に一定の制約を設けたケースに対するタイトな下界を導出することに成功した。 以上に加えて、SATソルバや整数計画ソルバ等の高度な活用を通じて、計算幾何や離散数学分野の問題に対する興味深い進展を与える等の成果を得ることができた。これらの成果について、国際論文誌や国内学会等において発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特に回路計算量におけるいくつかの重要な問題に対して、本研究が目指す、実験数学的手法の活用を通じた進展を与えることができている。また、当該アプローチにより成果を得られる分野が、計算複雑さの理論を超えて広がりを見せている。以上より、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、計算機による解析と理論的解析を高度に融合した計算量理論の展開を目指す。特に本年度得られた、しきい値回路に対する新たな計算複雑さの解析手法の深化を重点的に追求する。より具体的な研究の推進方策は以下の通りとする。 1.2段のしきい値回路の計算複雑さに対する強い下界を導出する問題は、既に数十年にわたり重要な未解決問題となっている。本年度開発した、特殊な形状のしきい値素子回路の構成を経由する議論は、これに向けた新たな道筋を与えるものと強く期待される。今後、特にこの手法に対する理論的な再検討を端緒に、計算機による解析を加えつつ下界導出の可能性を探る。特に、制限を加えた回路における計算量下界と制限の強さや性質との関係に対する比較検討を通じて、新たな計算複雑さの解析手法の開発を目指す。 2.2層あるいは3層といった、ある程度浅い段数の回路に対する計算複雑さの解析に対する新たな計算機援用型アプローチの発見を目指す。これまでは主に、線形計画、あるいは、整数計画といった一次制約的問題への還元等を主に追及してきたが、今後は、より高度あるいは高次の問題への還元等の可能性についても積極的に追及することとする。 3.回路計算量に留まらず、さまざまな分野に現れる離散構造的問題に対しても、本研究が追及する実験数学的アプローチの適用範囲を拡大し、重要な成果を得ることを目指す。 以上へ向けて、特に最適化理論等の最新の技術の獲得のために、関係する会議等への参加や、関係する研究者との議論を積極的に行うこととする。また、得られた成果は、従来通り、順次、国際会議や論文誌等へ投稿し、あるいは、研究会等において発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計算機実験のために計算機の購入を予定していたが、一部、他の研究費により購入した計算機が流用できることとなったため、一部剰余金が生じた。これについては、特に、既存計算機の高性能化の費用等として使用する。また、3月に予定していた成果発表のための海外出張および数件の国内出張が、感染症流行のため全て直前に中止となったため、旅費に大きな剰余金が生じた。当該国際会議は、1年間の延期が決定しており、剰余金はこのための旅費等として充当する予定である。
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