研究課題/領域番号 |
18K11152
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
天野 一幸 群馬大学, 情報学部, 教授 (30282031)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 計算複雑性理論 / 整数複雑さ / 下界 / 多項式しきい値関数 / 論理関数 |
研究実績の概要 |
本研究は,理論計算機科学分野において挑戦的課題の一つとされる計算複雑さの解析に対して,特に計算機援用型手法によりアプローチするものである.今年度は,特に以下の2点について成果を得ることができた. 1.与えられた自然数を,数値の1と,加算,乗算,および,括弧を任意に用いて表現するときの,数値1の使用回数の最小値を,その数の整数複雑さと呼ぶ.MahlerとPopkenによって1950年代に提唱されたこの問題は,そのシンプルさにも関わらず,良い上界,および,下界を求めることは長年の未解決問題となっている.本研究では,これまで知られる最良の上界が2進数表現を元にしていること,および,最良の下界が3進数表現を元にしていることに着目し,2進と3進を任意の順番で使用できるとした,混合2-3進数表現を提案し,この表現を用いた整数複雑さについて解析を行った.その結果,平均的複雑さに対する,これまで知られる最良の上界の改良や,整数複雑さの分布についての新たな知見を得ることに成功した.この結果は,国際会議ISAAC2022において発表を行った. 2.論理関数の重要な表現手法の一つである,多項式しきい値表現の複雑さに関する解析を行った.特に,ODD-MAXBIT関数と呼ばれる論理関数を,この形式で表現したときの,係数の和に対する下界を求める問題に対して,既知の最良の上界とほぼマッチする下界を証明することに成功した.これは,20年来の未解決問題を解決したものである.証明には,ランダム割り当てと,論理関数の自己帰着性を巧妙に組み合わせた手法を用いており,より広く決定リストの表現長の解明への発展も期待できる.この結果は,電子情報通信学会論文誌に掲載された. これらに加えて,幾つかの離散数学的問題に対して興味深い進展が得られるなど,本研究の目的の達成に向けて重要な進展を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計算機援用型の計算複雑性解析手法の開発といった,本研究の目的の達成に向けて,重要な進展が着実に得られているものの,研究期間の延長を再度行うなど,当初の予定よりも長い期間を要しており,やや遅れているものと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる今年度は,これまで開発してきた様々な個別問題に対する解析手法を,その相互関係の解析等を通じて,より広範に適用できるよう汎用化を目指す点等に重点をおいて研究を推進することとする. 特に,論理関数の複雑さの導出手法の開発といった,研究代表者が長く追及してきた重要なテーマへの貢献を得られるよう最大限の努力を行う.近年,これまで広く用いられてきた離散数理的手法に加えて,隣接の情報理論的手法や,複雑さの導出問題自身の複雑さの解析からのアプローチの併用等,伝統的な当該分野にも新たな視点を通じた展開が生まれつつある状況となっている.本研究においても,これらの新たな視点からの解析の適用可能性を積極的に検討しつつ研究を進める.もちろん従来より行ってきた,理論的解析と計算機援用型の解析の2つのアプローチを高度に組み合わせる手法の深化も併せて追及する. 得られる成果は学会発表や学術論文を通じて積極的に発表を行うこととする.また,高度な専門知識を持つ研究者との議論等も通じて,新たな着想に辿り着く可能性の最大化を目指す.年度の終盤には,それまでに得られる成果をとりまとめ本研究の総括を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
発表を行った国際会議が,Covid19の影響によりハイブリッド開催となり,リモートでの発表を行ったため,旅費に若干の剰余金が生じた.より広範な成果を得るため,本研究課題の研究期間を延長し,2023年度を最終年度とすることとしたため,剰余金は,今年度行う学会発表に必要な経費として用いることとする.
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