研究実績の概要 |
以下では, 成果のひとつである量子超越性について述べる. 量子計算が古典計算よりも高速であることの理論的な証拠として, (1) 具体的な問題に対して古典アルゴリズムよりも高速な量子アルゴリズムが存在, (2) 限定された計算モデルでの計算時間のギャップ, (3) 計算複雑性における仮定のもとでの計算時間のギャップ, などがある. 本研究では(3)のアプローチをとる. いくつかの非万能量子計算モデルの出力確率分布は, 多項式時間階層の崩壊のような計算複雑性理論でありえなさそうな結果が起こらない限り, 古典的に効率よくにサンプリングされることはない. このようないわゆる量子超越性と呼ばれる結果は、わずかに超多項式である計算時間での古典シミュレーションを除外するものではない. 本研究では「fine-grained版」の量子超越性について研究し, 準指数時間での古典シミュレーション可能性を除外する. 我々は2つの非万能量子計算モデル, DQC1とHC1Qモデルに着目し, fine-grainedな計算複雑性におけるある仮説のもとで, これらのモデルの出力確率分布を乗法的誤りについて近似するには, 古典計算ではほぼ2^N時間必要であることを示した. ここでNはqビットの数である.また, 万能量子計算を行えるモデルも考え, 例えばクリフォードゲートとTゲートの上での量子計算であれば出力確率分布を乗法的誤りについて近似するには, 古典計算では2^{Omega(t)}時間が必要であることを別のfine-grainedな仮説のもとで示した. ここでtはTゲートの個数である.
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