研究課題/領域番号 |
18K11172
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
関川 浩 東京理科大学, 理学部第一部応用数学科, 教授 (00396178)
|
研究分担者 |
白柳 潔 東邦大学, 理学部, 教授 (80396176)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 摂動 / 誤差 / 安定性 / 代数方程式 / 多項式 / 数値数式融合計算 / 安定化理論 |
研究実績の概要 |
代数問題について、入力データの摂動に対して解が連続的に変化する場合を安定な場合、そうではない場合を不安定な場合と呼ぶことにする。代数問題が不安定な場合、誤差のある入力に対してそのまま計算して求めた解には意味がなく、目的に応じて適切な問題を再設定する必要が生じる。研究代表者らは「最近接問題」という概念を導入することにより、適切な問題をある程度統一的に再設定できるという認識をすでに得ている。本研究では、この認識を発展させ、代数方程式に関わる問題を中心として、適切な問題を再設定する方法論の確立、再設定した問題を効率的に解く数式処理アルゴリズムの構築を目指す。 本研究の目的を達成するため設定した課題は以下の通りである。課題1は具体的な代数問題に対する摂動の影響の理論的な解析、課題2は課題1の結果を利用した問題の再設定とそれを解く数式処理アルゴリズムの構築、および、数値数式融合計算、とくに安定化理論を援用したアルゴリズムの効率化、課題3は種々の問題に対する課題1、2の知見を利用した問題再設定の方法論の構築である。 本年度に得た主な成果は以下の通りである。課題1については、連立代数方程式の解の、係数についての連続性に関するもの、課題2については、一変数多項式について、係数の誤差のため、本来、零点となるべき点での値が0からずれている場合、それらの点を零点とする、元の多項式に一番近い多項式を求める問題に関するもの(以下、「零点を指定した場合の最近接多項式の問題」と略記する)、および、多変数多項式補間に関するもの、安定化理論に計算履歴を合わせて利用する手法を最短ベクトル問題へ適用したもの、である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画は以下の通りであった。(1)すでに予備的な研究により、多項式系がグレブナ基底をなし、さらに若干の追加条件を満たせば、その共通零点(連立代数方程式の解)が係数の摂動に対して安定となることを定性的に示すことができていた(課題1に相当)。この結果を定量的にすることを試みるとともに、この知見を利用して、非線形連立代数方程式の問題について課題2を考察する予定であった。(2)また、従来より研究を続けている零点を指定した場合の最近接多項式の問題については、問題を幾何学的に扱うことにより見通しがよくなる場合があることが分かってきたので、その知見を生かすことにより、 課題1、2に加え課題3も扱う予定であった。 (1)については、予備的研究の成果は予定通り6、7月の国際会議にて発表した(課題1)。その結果を定量的にする代わりに、前提条件を弱くする方向で研究を行ったが、残念ながら発表までには至らなかった。零点を指定した場合の最近接多項式の問題については、問題を幾何学的に扱うことにより見通しがよくなる場合について12月の研究集会にて発表した(課題2)。その他の成果として、多変数多項式補間について、従来提案したアルゴリズムを種々改良したものを9月、12月、および3月の研究集会で発表した(課題2)。また、安定化理論に計算履歴を合わせて利用する手法を最短ベクトル問題へ適用した成果を論文化した(課題2)。 以上の通り、(1)は予定を下回り、(2)は課題3には踏み込めなかったものの課題2で一定の成果を上げ、その他、2018年度の予定には挙げていなかった問題について課題2に関する成果も得たので、全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、2018年度に研究を行った項目のうち、連立代数方程式の解の連続性については引き続き、前提条件を緩められないか研究するとともに、本来の予定であった定量化を目指す。多変数多項式補間については、かなり成果がまとまってきたので論文化を考えるとともに、まだ試していないアイディアが複数あるので、それらを実装して実験を行い、さらに課題3に踏み込む研究を目指したい。 また、幾何学的な問題は座標を使って記述することにより代数的な問題となるので、その方向にも研究を進める予定である。 そのほか、確率的な考えをうまく取り込めないかについて研究を行いたい。これには二つの方向があり、一つはアルゴリズムの効率化に確率的アルゴリズムを考えること、もう一つは問題の再設定に際して、誤差の分布などで確率を考慮できないか、ということである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
関川に次年度繰越金239円が生じた理由は、大学研究費との合算は研究期間最終年度1回のみしか認められていないためである。 白柳に次年度繰越金7,420円が生じた理由は、年度後半になり、要求仕様を満たす機器が年度初めより安価になったためである。 2019年度に使用する研究費のうち、主だったものは以下の予定である。まず、多変数多項式補間で得た研究成果を国際会議International Symposium on Symbolic and Algebraic Computation (ISSAC2019)にポスターとして投稿予定で、採択されれば北京(中国)において開催される同会議にて発表するための旅費、会議参加費として使用する(関川)。 また、情報収集、研究者との議論、2019年度中に得た成果の発表などのため、国内で開催される学会、研究会に参加するための旅費、会議参加費として使用する(関川、白柳)。
|