研究課題/領域番号 |
18K11175
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
竹田 晃人 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 准教授 (70397040)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 行列分解 / ベイズ推定 / スパース性 / 疎行列推定アルゴリズム / スパースコーディング |
研究実績の概要 |
当該年度は (1)ハイパーパラメータ調整法を導入したスパース行列分解アルゴリズムの開発 (2)行列分解のアルゴリズムの収束点の性質の解析 (3)神経科学におけるスパースコーディング問題との関連性および独立性を考慮した新たな行列分解アルゴリズムの解析、以上3点について重点的に研究を実施した。 (1) 前年度までにハイパーパラメータ調整法を導入した行列分解アルゴリズムの構築に成功していたが、このアルゴリズムの挙動を詳しく調べたところ、現在広く使用されているスパース主成分分析(sparse PCA)アルゴリズムに匹敵する良好な疎行列復元性能を示すことが分かった。この結果も含め、これまでに得られた結果を学術誌論文としてまとめ、現在投稿中である。 (2) 前年度から継続してガウス事前分布を仮定した行列分解アルゴリズムの挙動を調べているが、このアルゴリズムは高速に収束することが判明したため、まずアルゴリズムの収束点の性質を調べることとした。そのために統計的神経科学理論で用いられる信号・ノイズ分離の手法を解析に利用している。既にある程度の結果は得られているので、今後順次公表する予定である。 (3) 脳情報処理で重要なスパースコーディングと行列分解問題との関係を調べるため、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の公開データに様々な行列分解アルゴリズムを適用し、脳情報処理における特徴量抽出を試みた。結果として、スパース性を重視した行列分解アルゴリズムが最も効率良く特徴量を抽出できることが判明した。この結果は日本物理学会で発表済である。加えて、分解行列の独立性を加味したアルゴリズムの開発を関連して行った。 この他に行列分解問題に関連する機械学習 (近年は深層学習を行列分解に適用した研究が多いので、特に深層学習を用いたもの) あるいは神経情報処理の研究を幾つか行っており、一部には刊行化された研究成果もある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の通り、当該年度はアルゴリズム開発に関し複数の研究を同時に進め、かつ脳情報処理との関連性という新たな視点からの研究も実施できた。学術誌論文も投稿しかつ学会発表も実施しており、研究成果は着実に得られている。この点においては順調といえる。ただし、当初計画していた行列分解アルゴリズムの動的性質に関する理論研究については研究の実施時間が足りず若干遅れ気味である。 当該年度は、これまでに共同研究を実施してきた研究室の卒業生2名、および新たに加わった現研究室の学生1名とともに研究を実施しており、メンバーはある程度充実してきたといえる。ただし、研究代表者は現在大型科研費のプロジェクトに関わっており、そちらの研究も進めていかなければならない状況にある。従って本研究課題に専念することが難しかったために、研究の進捗が若干遅れ気味になったことは否めない。加えてコロナ禍が続いていたために、共同研究の実施や関連分野研究者との意見交換がしづらいという面もあった。 以上より、本研究課題の計画はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究課題の最終年度となるため、研究成果の学会等での公表に加え、未だ論文化していない成果の論文化を進める。特にガウス事前分布を仮定した行列分解アルゴリズムの収束点の性質については、早急に成果をまとめ論文化する予定である。加えて、本計画研究で提案したスパース行列分解アルゴリズムの収束点の性質もガウス事前分布と同様の手法で解析を進める。研究実績概要で述べた通り、提案したスパース行列分解アルゴリズムは高い疎行列復元性能を示すが、復元性能を理論的に解析しアルゴリズムの性能を保証する必要がある。さらに、本研究課題で当初予定していたアルゴリズムの動的性質の解析もできる限り研究を進める予定である。 また、新たな研究課題として脳情報処理におけるスパースコーディングと行列分解問題との関連性を調べており、スパース性を重視した行列分解の手法が脳情報処理の理解に対し有用であるという結果がこれまでに得られている。この結果を深く掘り下げることで成果の論文化を予定している。本研究と関連して、脳情報処理を適切に記述する新たな行列分解の手法開発についても研究を進める予定である。 本研究課題はこれまでと同様に研究代表者・研究室の卒業生・現研究室の学生と共同で進めていく。ただし現在研究代表者は大型科研費のプロジェクトにも従事しているので、研究メンバーに課題を適宜分散して実施させ、効率良く計画を進められるように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はコロナ禍の終了を見込んで研究成果の公表のための旅費(主に学会出張の為)を多く見積もった。しかし、結局コロナ禍の長期化により学会や研究集会は引き続きオンライン実施となり、旅費はほとんど使用しなかった。そこで今年度は発表用ノートパソコンの更新、謝金や共同研究者の招聘に助成金を主に使用した。一方、次年度は本研究課題の最終年度であり、かつコロナ禍の終了も見込まれるので、研究発表のための旅費が多めに必要と予想される。そこで次年度の旅費のためにある程度助成金を繰り越すこととした。
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