研究課題/領域番号 |
18K11181
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
増山 博之 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (60378833)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 戦略的待ち行列 / 待ち行列ゲーム / レベル依存 / ブロック構造化マルコフ連鎖 / ランダムウォーク型マルコフ連鎖 / エルゴード解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,「戦略的待ち行列(待ち行列ゲーム)」に対する性能評価指標の理論解析および数値計算法の確立を目的とする.具体的には,ブロック構造化マルコフ連鎖やランダムウォーク型マルコフ連鎖のエルゴード解析,切断誤差評価,数値計算法の開発などを行う.平成30年度の研究実績は以下の通りである.
(A) 一般的な状態空間上のマルコフ連鎖に関するPoisson方程式の解の上界を示した.この結果から,定常分布の切断誤差上界や偏差上界を導くことができる.具体例として,M/G/1待ち行列の系内仕事量分布に対する陽的な切断誤差上界を与えた. (B) 集団到着や一般サービス時間分布をもつセミ・マルコフ型待ち行列長過程は,それ自身,あるいは,隠れマルコフ点での離散時間過程が,上方ブロック・ヘッセンベルグ型マルコフ連鎖(レベル依存M/G/1型マルコフ連鎖)となる.しかし,その定常分布の数値計算法は確立されていなかった.研究代表者自身の過去の研究成果を基に,上方ブロック・ヘッセンベルグ型マルコフ連鎖の定常分布に収束する逐次更新アルゴリズムを構築した. (C) 上方ブロック・ヘッセンベルグ型およびランダムウォーク型マルコフ連鎖の代表例であるM/G/1型マルコフ連鎖を対象に,レベル増分分布がLong-tailedであるという仮定のもとで,最終列ブロック増大切断近似に関する漸近公式を導いた.この漸近公式は切断パラメータを決める際の指針となることが期待される. (D) 戦略的待ち行列の新しい基本モデルとして,離散時間単一サーバ・ポアソン待ち行列ゲームを考え,平均待ち時間の最小化を目指す客母集団の均衡到着分布を解析した.さらに,待ち行列ゲームの挙動を模擬したAgent-based modelを構築し,解析的に得られる均衡到着分布が再現されることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,実施を計画していた4つの課題のうちの3つ「a.一般的なマルコフ連鎖の切断誤差評価」「b.上方ブロック・ヘッセンベルグ型マルコフ連鎖の定常分布に関する数値計算法の開発」「c.M/G/1型マルコフ連鎖の切断近似の漸近解析」に加え,「d. 新しい戦略的待ち行列(待ち行列ゲーム)の提案と解析」について研究を行った.これら課題に関する研究実績の概要は,上記「研究実績の概要(A), (B), (C), (D)」に記載した通りである.なお,研究実績(A)と(D)については,それらをまとめた論文をそれぞれ海外英文誌に投稿し,現在,査読審査結果を踏まえ,改訂作業を行っている.研究実績(B)に関する論文については,海外英文誌「Queueing Systems」に採録が決まり,すでにオンライン上で公開されている.研究実績(C)に関する論文は,海外英文誌にて査読審査中である.以上を踏まえ,本研究課題の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度以降は,以下の課題に取り組む予定である. (1) ブロック・ヘッセンベルグ型マルコフ連鎖の定常分布に関する研究を行う.上方ブロック・ヘッセンベルグ型については,提案した数値計算法を改良する.下方ブロック・ヘッセンベルグ型についても,行列解析法と切断近似法を組み合せ,新しい数値計算法を開発する. (2) 平成30年度に引き続き,M/G/1型マルコフ連鎖,さらにはその一般化であるGI/G/1型マルコフ連鎖の定常分布に対する切断近似の誤差評価と漸近解析を行い,切断パラメータの決定に資する知見を深める. (3) 早期到着や,時間依存コスト,遅延コストなどが,離散時間単一サーバ・ポアソン待ち行列ゲームの均衡到着分布に与える影響について,理論解析およびAgent-based modelによるシミュレーション実験を行い,サービスシステムにおける最適な意思決定のための知見を集積する. (4) 実施を計画していた課題のうち,平成30年度では未着手であった「2次元反射型ランダムウォークの準出生死滅過程近似に対する誤差評価」を行う.なお,この研究が計画通りに進まない場合には,その他のランダムウォーク型マルコフ連鎖に対するエルゴード解析や切断近似の誤差評価などに取り組みたい.
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