研究課題/領域番号 |
18K11182
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
趙 亮 京都大学, 総合生存学館, 准教授 (90344902)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ネットワークアルゴリズム / アロメトリー / ネットワークの代表点 / 複雑ネットワーク / 民主度指標 / 一票の格差 |
研究実績の概要 |
グラフにおいて、任意の節点 v から k 本以下の枝で到達できる点の集合を N_k(v) と記し、v が N_k(v) に含まれる点を支配するという。すべての節点を支配するのに必要最小限の節点の部分集合を求める問題は、最小距離 k 支配集合問題といい、NP困難と知られている。さらに、NP≠Pなら最良近似比が Ω(log|V|) となるほど近似困難である。ただし V は節点集合を表す。本研究は、大規模な複雑ネットワークに特化した理論保証の高いアルゴリズムを開発し、それを用いてネットワークの大きさと最小距離 k 支配集合等の大きさの間にあるアロメトリー (allometry、対数線形関係) とその仕組みを明らかにする。応用として適切な国会議員定数割当(「一票の格差」問題)の数理モデルを根本から見直す。 前年度までに、民主的な代表を決めるモデルとして、半数以上(すべてとしてもよい)の節点を支配する(=代表できる)必要最小の節点集合の大きさ R を考えた。k=Ω(log|V|)の場合(=スモールワールドモデル)、節点の間に距離による代表性ピラミッド構造の存在という妥当な仮説のもとで、アロメトリーの存在を理論的に示しパラメータの評価を行った。 H31/R1年度では、数多く実在するソーシャルネットワークを用いて計算機実験を行い、アロメトリーの関係を定量的に実験的に明らかにした。特に、国会議員(下院)数に関して、人口 n と 民主的代表数 R との間に R ≒ n^{2/5}/3 の関係を明らかにし、従来のモデルより実データによく合うことを確認した。その成果は査読付きの国際会議NetSci-X 2020で発表した。さらに、代表の意味での妥当性に関する調査論文と、日本における国会議員の配分定数改正を研究し民主度指標を提案した論文が、査読無の日本オペレーションズ・リサーチ学会春季大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の核心となす学術的問いは、Q1: 最小距離 k 支配集合等の大きさとネットワークの大きさの間に見られたアロメトリーは、どこまで普遍的なものであろうか、Q2: なぜそのような現象が起こるのか(アロメトリーの仕組みに関する理論解析)、Q3: 応用上の意味があるか(本研究では「一票の格差」問題等を検討する)からなる。現在計算アルゴリズムの理論精度についてはまだ十分に解析できていないが、上界と下界の計算が実験的にできるため、問題なく検証実験が進んでいる。数多く様々規模な実ネットワークに対して実験した結果、Q1とQ2を答えるアロメトリーの理論的解析やその仕組み(スモールワールドモデルと距離による代表性のピラミッド構造の存在)を解明しており、さらにQ3の一票の格差問題について、昨年度の課題になっていた現在の法律の認識(議員定数は人口と線形関係でないと平等でないこと)と噛み合わないことに関して、古代ギリシャや古代ローマ時代からアメリカ現代に至る歴史的認識を調査し、本研究の提案が普遍的(現在法律の認識が限定的)であることを確認できた。よって、順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、アルゴリズムの理論的解析とさらなる計算機実験およびアルゴリズムの改良を行いながら、研究成果をまとめて発信する予定である。アイディアは、いままで知られている代表点の計算アルゴリズムであるSieve法およびQuasiGreedyのハイブリッドを開発することである。双方の利点を組み合わせることによって改善が見込まれる。また、前年度末に査読無で発表した研究成果について、さらに改善して査読付きのジャーナルに投稿する予定である。最後に、本研究で得られた一連の成果をウェブサイトや書籍などとして公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で3月初めに予定していた米国出張(旅費30万円の予定)が延期、また、予定していた計算サーバー(物品費50万円の予定)も年度内の納品が不可能となったため次年度で使用することとなってしまった。それぞれ次年度(R2年度)で実施または調達する計画である。
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