本研究では,臨床試験やデータベース研究においてサンプルサイズが小さい,イベント数が少ないといった小標本問題に対する統計手法の開発及びその実用化を行っている.2021年度は以下の課題に取り組んだ. 課題1)ロジスティック回帰分析では,アウトカムと特定の因子水準のデータが少ない場合,オッズ比の推定値にバイアスが生じる.本課題では,複数のバイアス補正法の性能を評価し,ベイズ流の方法が優れていることを示した.その成果を学術論文として公表した. 課題2)経時測定データに線形混合効果モデルを適用する場合,標準誤差の推定にロバスト分散推定量を使用することがある.しかし,ロバスト分散推定量は小標本下でバイアスをもつ.本課題では,過去に提案したGoshoの方法を含め,複数の小標本ロバスト分散推定量の性能を比較し,Mancl & DeRouenの方法が優れていることを示した.その成果を学術論文として公表した. 課題3)希少疾患や小児を対象とした臨床試験では,症例集積は容易ではない.この問題を解決するため,過去の臨床試験から得られた既存データを利用する方法がある.本課題では,既存データを利用するための新しい統計手法を開発した.数値実験により,提案法の検出力は既存法よりも高いことを確認した.その成果を学会で発表し,学術論文として公表した. 課題4)安全性情報データベースの解析では,薬物相互作用を評価することがある.本課題では,報告数の少ない薬物相互作用を早期に検出するための新しいシグナル検出法を開発した.数値実験により,提案法の感度は既存法よりも高いことを確認した.その成果を学会で発表し,論文投稿準備中である.また,薬物相互作用に対するシグナル検出を実際のデータベースに応用し,その成果を学術雑誌に投稿した.
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