研究課題
本研究の目的は,異質な部分集団で構成されるデータに対し「予測力(または説明力)」と「解釈可能性」が両立した統計モデルの構築を模索することである.本年は,モデルの予測力を評価するための指標である,power-IDIの拡張について検討した.power-IDIは,Hayashi and Eguchi (2019, Statistics in Medicine) で提案した,モデルの予測能改善の指標である.この指標は二値応答回帰モデルを想定して設計されているが,これを自然な形で多値応答に対する回帰モデルについて拡張した.これは,AUC(ROC曲線下面積)の多値応答に対する拡張であるHUV(ROC曲面下体積)に比べて,Fisher一致性や計算コストの面から意義のある拡張であると考えられる.同様に,生存時間応答に対するpower-IDIの拡張も検討し,Branche et al.(2019, Biostatistics) との関連を考察した.また,広義な異質な部分集団として,ノンコンプライアンスの発生下で,かつ(デザイン上ではない)真の介入情報が欠測している場合に,平均因果効果の推定バイアスを軽減する方法について取り組んだ.これは,操作変数法と同様の仮定を課した下での,逆重み付き推定量の一種である.ただしComplierに対する条件付平均因果効果の推定については未完成であり,今後の課題として取り組んでいく予定である.
2: おおむね順調に進展している
power-IDIを,より広いモデルについて拡張する方法を確立することができた.当初想定していたクラスタワイズ回帰モデルについて遅れている部分はあるが,今年度の研究を回帰モデルに応用するという方向性に進展が期待された.上記の2点を総合的に考慮すると,進捗はおおむね順調であるといえる.
クラスタワイズ回帰モデルに基づく,研究目的に合致したモデルの再検討を行う.具体的には,擬似線形関数に依存しない,拡張モデルの可能性を模索する.とくに,不連続な挙動を許容するようなモデルを含んだ拡張が必要であると考えている.
(理由)香港の政治的混乱のため,招待講演による発表を予定していた学会(The 11th Conference the Asian Regional Section of the International Association for Statistical Computing (IASC-ARS))への参加が中止になった.そのため,予定していた研究費の執行に大幅な変更が生じた.(使用計画)上記の理由により執行額と見込み額に多少の差が生じたが,研究計画自体に変更はない.今年度の研究を土台に,計画に沿って研究を推進する.生じた差額は,外部記憶装置とオンラインでの研究環境を改善するための物品費に充当する予定である.旅費は,研究推進に必要な学会参加や研究打ち合わせのために使用する予定であるが,新型コロナウイルス問題の終息時期次第で柔軟に対応する.また,資料整理の依頼に対する謝金や,論文の英文校正のための支出も計画している.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Statistics in Medicine
巻: 38 ページ: 2589-2604
https://doi.org/10.1002/sim.8135
Journal of Cardiology
巻: 74 ページ: 64-68
https://doi.org/10.1016/j.jjcc.2019.01.010