研究実績の概要 |
帰無仮説の族 Hp={Hpj| j=1,・・・,mp} (p=1, ・・・,q) に優先順位がつけられているときに直列型ゲートキーピング法とよばれる閉検定手順による多重比較検定がMaurer et al. (1995) によって提案されている.Bonferroniの方法やHolm (1979)の方法による理論が用いられている.直列型のゲートキーピング法は帰無仮説の族H1,・・・,Hqの順で検定が行われていくが,途中のHp (1≦ p <q)の中の1つでも棄却できないと,以後の帰無仮説の族Hp+1,・・・,Hqの検定は行われない. 本研究では,観測値がq個の多標本正規分布モデルを考えた.ただし,q個の多標本確率べクトルの間に独立性の仮定はいれない.ここで考えたモデルは,q次元正規分布に従う多標本モデルを含む一般化がなされている.kp個の平均のすべての相違を多重比較するための帰無仮説の族をH(p) (p=1, ・・・,q) とし,帰無仮説の族H(1) ,・・・,H(q)に優先順位がつけられているとした.対立仮説に順序制約がある場合とない場合について正規分布の下でのパラメトリック法として最大値t検定統計量,F検定統計量,Bartholomew統計量に基づく閉検定手順を用いたハイブリッドな直列型ゲートキーピング法を提案した.シングルステップよりもマルチステップの閉検定手順を使用した方が検出力は高かった.Maurer et al. (1995)のゲートキーピング法に沿うと,Bonferroniの方法またはHolm (1979)の方法に替えたゲートキーピング法となるが,この方法は,ここで提案した手法よりもはるかに検出力が低い.さらに提案した手法により癌のデータの解析を行った.年齢が上がるに従って癌による死亡が多くなることが解った.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では平均と分散が異なる正規分布の下でのモデルに対して多重比較法を新しく提案し,数値計算法による解明により提案した手法を用いたデータの解析ができるようにする。等分散が仮定された多標本正規モデルにおける平均の多重比較法としてこれまで提案されたテューキー・クレーマー法,スティール(Steel (1960))の方法,テューキー・ウェルシュの方法,ペリ (Peritz (1970))の方法などの多重比較検定よりも一様に検出力の高い閉検定手順による多重比較検定を,白石(2011)は提案できた。 さらに,多標本連続モデルにおいて,平均母数に順序制約がある場合に,正規分布を仮定したパラメトリック法について考察した。これらの内容は著書「白石高章・杉浦洋 (2018) 多重比較法の理論と数値計算」に詳細にまとめられている。 平均と分散が異なる正規分布の下でのk群モデルに対する多重比較法は提案されていない。本研究では漸近理論によりk個の平均とk個の分散の同時信頼区間を提案し,同時信頼区間を求めるための分布論を構築し数値重積分によって分布の上側100α点を計算する。さらに,同時信頼区間を基に,シングルスステップの多重比較検定を提案する。次に,シングルステップの多重比較検定を優越するマルチステップ法の提案と理論の構築を行う。シミュレーションにより提案した手法の良さを検証する。 最後に,観測値がq次元連続分布に従うk標本モデルを考える。k個の平均ベクトルと分散ベクトルのp成分の間のすべての相違を多重比較するための帰無仮説の族をHp(p=1,・・・,q)とする。帰無仮説の族 H1,・・・,Hqに優先順位がつけられているときに直列型ゲートキーピング法を使って水準αの多重比較検定を行う手順を多次元正規分布の下でのパラメトリック法について論述する。
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