本研究では,k標本2次元正規分布モデルを考えた.この場合,各標本の平均と分散は未知で同一である必要のない場合に,k個の相関係数の多重比較法について研究を行なった.1 標本 2 次元正規分布モデルの相関係数の解析にはフィッシャーの z 変換による統計量が使われる.この z 変換による統計量の漸近正規性は Anderson (2003) に書かれているが,それとは異なる証明を与えた.この漸近理論を基に,分散共分散行列が未知の 2 次元正規分布に従う k 標本モデルにおける相関係数を多重比較する手法について提案した. 1つ目の論文として,k 個の相関係数の同時信頼区間,シングルステップのすべての相関係数の多重比較検定,マルチステップの多重比較検定の理論を構築し,その理論を基に良い手法の提案を行った.さらに,これらの手法を適用したデータ解析の例として,脊椎動物の全長と寿命の相関係数を解析した. 観測値が未知の分散で同一である正規分布に従う k 群モデルにおけるすべての平均相違の多重比較法が白石 (2011a) によって論じられている.また,正規分布の下で平均に順序制約のある場合の母平均の多重比較法は白石・杉浦 (2018) によってレビューされている.2つ目の論文では観測値が 2 次元正規分布に従う k 標本モデルにおいて,分散共分散行列が未知の 2 次元正規分布に従う k 標本モデルにおける相関係数の相違を多重比較する手法について提案した.これらの手法は,1つ目の論文の論文とは異なるk 個の相関係数の差の同時信頼区間,相関係数相違に対するシングルステップの多重比較検定,マルチステップの多重比較検定であった. 以上の多標本相関係数の推測は,多重比較法としては他の研究者が手を付けていないはじめての理論であり手法である.
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