研究課題/領域番号 |
18K11211
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
金子 峰雄 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (00185935)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 同期式回路 / クロックスキュー / 信号伝搬遅延 / 温度依存性 / 線形モデル / セットアップ条件 / ホールド条件 / クロック分配 |
研究実績の概要 |
本研究は、クロック信号のフリップフロップへの到着時刻を意図的に変化させるスキュー調整回路を導入し、対象回路の温度依存性の影響を温度依存タイミングスキューにて吸収することによって集積回路の高性能化を達成しようとするものである。当該年度においては、温度依存タイミングスキュー調整についての2グラフ・アプローチにおける数値的解法の開発、解法の計算機プログラム実装、シミュレーション実験・検証を通した理論の有用性検証を行った。より詳細には以下の通りである。 1.指定された温度範囲において回路を動作させるための温度依存タイミングスキューを計算するための2グラフ・アプローチを提案した。これは、考慮すべき動作温度範囲の低温端と高温端それぞれにおけるタイミング制約とスキュー調整回路の温度特性に起因する低温端と高温端のスキュー値従属関係の全てをグラフとして表現し、この制約グラフ上で最大パス長を計算することで、スキュー調整回路の設計パラメータ値を決定するものである。この際、通常の制約グラフの辺(加算辺)に加えて、新たな辺(乗算辺:始点の変数値に辺重みを掛け合わせた値と終点の変数値の間の大小関係を制約)が導入されることから、これに対応して最大パス長の概念ならびに最大パス長の計算アルゴリズムの拡張を行った。 2.2グラフ・アプローチにてスキュー調整回路の設計パラメータ値を最適化する計算機プログラムを実装し、複数のベンチマーク回路に対して本手法を適用し、性能評価を行った。零スキュー設計や定数(温度非依存)スキュー最適化設計と比較して本手法が大幅な性能向上を達成することを確認すると共に、多くの回路例において、低温端と高温端のスキュー値従属関係を規定しない理想スキュー調整回路設計に引けを取らない性能を達成できていることも確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究にて事業期間中に具体的に取り組む技術課題として、課題1.温度変動に対する信号遅延変動のモデル、課題2.対象回路の温度依存性とスキュー生成のための遅延回路の温度依存性を考慮したスキュースケジュール手法の開発、課題3.温度変動下での高性能化や動作可能温度範囲の拡大を実現する最適な遅延回路温度依存性の探究、課題4.温度依存性のスキュー補償の適用を前提とした対象回路の設計最適化を計画しているが、第1年目、第2年目(当該年度)において課題1、課題2をほぼ完全に解決し、また課題3、課題4についても見通しが立った段階にある。当該年度の中心課題であった課題2に関して提案した手法は、回路の動作タイミングに関する拡張制約グラフを作成し、その上での最大拡張パス長を計算するものである。この手法そのものは、与えられた回路に対して最適な温度依存タイミングスキュー値(スキュー生成回路の設計パラメータ値)を計算するものである(課題2の解決)が、付随して議論された最大拡張パス長(より厳密には、有限なウォーク長)が存在する条件は、高性能化や動作可能温度範囲の拡大の限界を規定することになる。すなわち、より高く設定された性能要求、動作可能温度範囲要求において最大拡張パス長の存在を阻む要因を取り除くことが、課題3、4を解決する基本原理となり、その検討基盤が整った段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究にて、その検討基盤が整いつつある課題3.温度変動下での高性能化や動作可能温度範囲の拡大を実現する最適な遅延回路温度依存性の探究、課題4.温度依存性のスキュー補償の適用を前提とした対象回路の設計最適化について、より具体的に検討を進めていく予定である。 3.最適なスキュー生成回路温度依存性の探究について:温度依存性を考慮したスキュースケジュールを適用した際の、最終的に得られる回路の温度性能(所定の動作温度範囲内での回路性能、あるいは所定の回路性能を達成する動作可能温度範囲など)は、スキュー遅延量の温度特性に依存して決まることから、温度依存性を持ったスキュー補償の観点から、理想とするスキュー遅延量の温度特性を明らかにする。 4.温度依存のスキュー補償を前提とした対象回路設計:温度依存性を考慮したスキュースケジュールを適用した際の、最終的に得られる回路の温度性能は対象回路の性質にも大きく左右される。特に動作タイミングが非常にクリティカルとなるデータパス回路部の設計を対象として、温度依存性のスキュー補償が最も効果的に機能して最高の温度性能を持つためのデータパス回路設計最適化を検討・開発する。 これら2つの課題に対して、課題2に関連して付随的に議論した2グラフ・アプローチにおける最大拡張パス長存在条件が重要な働きをするものと考えている。すなわち、より高く設定された性能要求、動作可能温度範囲要求において最大拡張パス長の存在を保証するようなスキュー生成回路の温度依存性の探求ならびにデータパス回路設計最適化が求められることになる。このような観点から議論を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度においては、国際会議での発表のため2020年3月に米国への出張を予定していたが、新型コロナウイルス感染の問題から、国際会議がネット会議に変更された。会議自体は開催され、論文発表も行うことはできたが、米国への出張がキャンセルとなっている。また、これより少し前の3月初旬には、国内学会で論文発表の予定であったが、学会自体がキャンセルとなってしまった(予稿集だけは発行されたため、論文は公表扱い)。以上2件の出張が年度末の時期にキャンセルとなったことが主な理由で、未使用分が生じることとなった。 次年度使用については、アルバイトなどを活用した設計理論に基づくCADソフトウエア開発や設計実験・検証の充実を図るための謝金として使途することで当初予定を越える成果を挙げ、論文発表の機会を増やすよう、事業を推進する計画である。
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