研究課題/領域番号 |
18K11231
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
小野美 武 福岡工業大学, 工学部, 准教授 (70312676)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超伝導 / 単一磁束量子回路 / 乱数生成器 / ストカスティック演算 |
研究実績の概要 |
本研究では、超伝導体の単一磁束量子演算回路による物理乱数生成器、およびその乱数生成器を用いたストカスティック論理演算回路の実験的な検証を、Nb/AlOx/Nbジョセフソン接合を用いた超伝導集積回路により行うことを目的としている。単一磁束量子回路はその高速・低消費電力性から信号処理回路への応用が期待されており、素子数の少ない回路で演算可能なストカスティック論理方式を利用することで、ソフトコンピューティングなどに適用可能なハードウェアコストの低い情報処理回路としての応用が期待される。 研究初年度としての本年度は、プロトタイプの超伝導物理乱数生成器の数値解析・設計・チップ試作までを主に実施した。乱数生成器の設計では、熱雑音による回路の揺らぎが乱数取得に有効に機能するかを、熱雑音を含む数値解析によって十分な検証を行った。特に、分周器入力のSFQパルス列生成を行うジョセフソン発振器に加えるバイアス抵抗の熱雑音や、乱数取得トリガー入力ラインに存在する抵抗などの値を調整することで、乱数が得られることを確認し、どのような品質の乱数が取得できるかについての知見が得られている。超伝導集積回路のレイアウト設計では、産業技術総合研究所のチップファンダリ用の回路設計を行い、回路パラメータを変化させた複数の乱数生成器を集積化した超伝導チップの入手を完了している。当初予定していたチップの計測は、次年度前半に実施することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度は、超伝導物理乱数生成器の数値解析・設計・チップ試作・測定を主に行うことを予定としていた。SFQディジタル回路のフリップフロップとANDゲートからなるプロトタイプの物理乱数生成器の回路設計を実施し、産業技術総合研究所のチップファンダリを利用したNb/AlOx/Nb集積回路のレイアウト設計を経て、チップ入手までを行った。測定は寒剤の液体ヘリウムが需給悪化により当該年度に入手することができず、当初より少し遅れ2019年度前半に実施することとしている。 一方、熱雑音による回路の揺らぎが乱数取得に有効に機能するかを、熱雑音を含む数値解析によって十分な検証を行ってきた。特に、分周器入力のSFQパルス列生成を行うジョセフソン発振器の熱雑音による揺らぎや、乱数取得トリガー入力ラインに遅延ラインを挿入することでタイミングジッターを増加させ、どのような品質の乱数が取得できるかを数値解析により明らかにした。この知見について当該年度は発表できなかったが、2019年度に国内外の学会への投稿を予定している。 以上のことから、当初予定していたチップ計測までは実施できなかったものの、チップ試作までは実施しており、計画の80%位まで到達できたものと考えている。ただし、2019年度前半に計測を実施できる見通しが得られているため、軽微な遅れと考えており、表記の区分(3)となったものの、計画から大きく外れる状況ではない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度前半は、昨年度入手を行った物理乱数生成器の超伝導チップの測定を実施し、その基本的な動作検証を実施する。昨年度後半から寒剤である液体ヘリウムの需給が悪化しており、入手が困難な状況が続いている。このことが昨年度後半に計測ができなかった理由であるが、需給状況の今後の見通しは得られていない。そこで、低温の測定においてはヘリウムリサイクルを実施している他大学の協力を得て、学外での計測を行うことを予定している。測定では、物理乱数生成器からのSFQパルスをSFQ/DC変換回路によって比較的低速(1MHz程度)の信号パルスに変換したものをデータ収集し、得られた乱数の品質を解析を行う。昨年度に購入した内蔵メモリ容量の大きなデジタルオシロスコープにより、長い信号シーケンスを取得できることが可能となっている。 これらの測定結果を踏まえ、次の計画を実施する予定となっており、順調であれば物理乱数生成器の高速化とその計測を実施するためのオンチップ高速テスト回路を付加した回路を設計し、チップファンダリによる試作へと進みたいと考えている。 一方、物理乱数生成器の高速化についていくつかの新規な回路構成も考えており、数値解析による設計と検証を継続的に実施することとする。昨年度得られた物理乱数生成器の数値解析結果を踏まえ、国内外での発表や論文投稿を予定している。また本年度実施する測定結果についても、学会を通じて公表を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の消耗品の購入時に、業者との値引き交渉において当初想定した金額より増額した値引きが得られたため、7,394円の次年度使用額が生じた。次年度予算の1%以下の使用額であり、実験に必要な薬品などの消耗品費として使用予定である。
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