研究課題/領域番号 |
18K11232
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研究機関 | 小山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
飯島 洋祐 小山工業高等専門学校, 電気電子創造工学科, 准教授 (90565441)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大規模集積回路システム / 多値伝送方式 / 伝送歪み / 波形整形 / アイパターン / 統計的評価 |
研究実績の概要 |
大規模集積回路システムの高性能化に伴って電気配線上での通信の大容量化の要求が高まっており、PAM-4(Pulse amplitude modulation-4)伝送など多値伝送方式の適用と高周波数化が進んでいる。しかし、信号の多値化に伴って受信端での伝送波形の歪みの影響が複雑化し、さらに高周波雑音やD/A変換などの回路の非線形性の影響がその問題を深刻化させている。本研究ではシンボル間の複数の遷移パターンが影響よる多値伝送特有の伝送歪みに対して、受信端歪みの影響を除去可能な波形整形回路システムの開発を目指している。 H30年度では、これまで申請者が提案してきたディジタル信号処理に基づく波形整形回路をベースに、多値伝送方式に対応した新たな波形整形回路の基礎開発に取り組み、従来のディジタル信号処理に基づく波形整形に加え、アナログ等化回路の概念を取り入れる事で高周波数特性を改善させ、多値伝送歪みに対して効果的な歪み補正が可能なディジタル・アナログハイブリッドの波形整形回路を新たに提案した。 H31年度では、前年度の成果を発展させ、伝送路の特性に応じた波形整形回路の自動調整に向けた受信端での多値伝送歪みの統計的評価手法とそれに基づく回路最適化手法の開発に取り組んだ。受信端波形のサンプリング値のヒストグラム分布を統計的に評価することで、特定のビットパターンなどの波形整形回路の初期パラメータ設定用のデータパターンを必要とせずに通信中の多値伝送歪みの影響を定量的に評価可能とした。基礎的評価の結果、受信端アイパターンが完全に閉じた状況においても、提案手法によってPAM-4伝送歪みの影響を推定し、それに基づく波形整形回路の調整が可能なことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は当初の計画通りに、統計的評価による多値伝送歪み評価手法の開発とそれに基づく回路最適化手法の開発に取り組んだ。具体的には、PAM-4(Pulse amplitude modulation-4)伝送において受信端波形のサンプリング値をヒストグラム化し、それを混合ガウス分布でクラスタリングすることで、推定した4つのシンボルの平均および分散にて伝送歪みの影響を評価可能とした。PAM-4伝送にて、開発した評価手法をシミュレーションした結果、伝送波形歪みの影響によって受信端でのアイパターンが完全に閉じている状況においても各シンボル分布を推定・クラスタリング可能であることを示せた。推定した結果から、伝送路での減衰および符号間干渉の影響の定量的な評価を実現できることを示した。 実際のmicro-strip線路を用いてオシロスコープで観測した実測のPAM-4伝送波形においても、開発した評価手法の有効性を検証したところ、受信端アイパターンが閉じた実測波形でも4つのシンボルの分布を推定できる事を確認した。さらに、推定した分散値を評価関数とすることで、波形整形回路のパラメータ最適化をシミュレーションにて実現した。開発手法では、波形整形回路の初期パラメータ決定のためのテストデータを必要とせずに、通信中に波形整形回路の自動調整が実現可能であり、その成果はIEEE InternationalSymposium on Multiple-Valued Logic 2020に採択されている。
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今後の研究の推進方策 |
R2年度は、H31年度開発の評価手法をFPGAとADC(アナログーディジタル変換)回路にて実装し、実機ベースでの基礎的評価を進める。具体的には、ADCにて受信端波形をサンプリングし、FPGA上にてH31年度成果の評価手法を実現する回路システムを開発する。ADCでのサンプリングでは、通信のナイキスト周波数に対して十分に低い周波数(低サンプリングレート)でのサンプリング手法を適用し、その受信端波形データに基づいた統計的手法による受信端伝送歪みの評価システムを開発する。さらに、これまでの成果と組み合わせ、開発した歪み評価手法にて受信端での伝送歪みの定量的な評価を実施し、その結果から送信側での波形整形回路の回路パラメータを自動で調整するシステムを試作することで、PAM-4伝送での有効性評価を実施する。回路パラメータの調整は外付けの計算機にて実行させ、調整アルゴリズムには粒子群最適化(Particle Swarm Optimization)などの適用を検証する。本検証にて、多値伝送特有の歪み除去回路と、特定のビットパターンなどの回路調整のためのテストデータを使用する事なく受信端でのサンプリングデータのみから伝送評価と回路最適化を実現する基本システムを検証する。
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