研究課題/領域番号 |
18K11233
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大堀 淳 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (60252532)
|
研究分担者 |
上野 雄大 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (60551554)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | コンパイラ / 関数型言語 / 超並列処理 / 型主導コンパイル / 動的型付け機構 / SML#言語 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、マルチコアプロセッサにスケールする超並列技術を,研究代表者等によって開発された高信頼関数型言語SML#に統合し、大規模分散計算や超並列計算をサポートする関数型言語を実現することである。この実現のため,(1)高水準言語処理系とOSライブラリとの直接連携による高水準超並列言語の実現と最適化、(2)方程式集合の並列変換を基礎とする大規模分散データ並列言語機能の設計と実現、(3)データベース問い合わせ言語との統合を基礎とする超並列入出力処理方式の研究、さらに、(4)以上の成果を統合した超並列SML#言語の実現を目指した研究を実施する計画である. 本年度は、昨年度に引き続き(1)の基盤となる並行ゴミ集め方式の改良、新たに(3)の基盤となる動的な型付け機構の研究、さらに(4)の実現を目指し以上の成果を統合したSML#言語の開発を行った。これらの成果の概要は以下のとおりである。(1) 本年度は、昨年度に開発した軽量超並列スレッドをサポートする並行ゴミ集め方式をさらに根本的に見直し、従来のエージェンとしての「collector」が存在しないほぼ完全な並列マーキングを実現する新たなゴミ集め方式を開発し、その正しさを証明し、コンパイラへの実装を行い、その効果を確認した。(3)超並列入出力処理方式の実現の基礎となるデータベース問い合わせ言語との統合の基礎は、型付き言語から外部データへの柔軟で安全なアクセスを実現するための技術の確立である。この目的のために、静的型付き多相型言語における動的型付け機構の実現方式の研究に着手し、SML#の研究開発を通じて我々が開発し完成させた「型主導コンパイル方式」の考え方を適用することによって、動的型付け機構を多相型言語に系統的に導入する方式を構築した。(4)これら成果を統合し拡張したSML#言語を開発した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標を実現する上で最大の難関と思われた軽量スレッドに対応し数百万以上の軽量スレッドの対応する並行かつ並列ゴミ集め方式を開発し、さらにその実装を完成させた。これらは、従来の考え方を超える世界的にみても新規性の高い新たなGC方式と自負する成果である。これら成果を、PLDIを含むトップコンファレンスにに投稿するものの、採録に至っていない。現在、関数型言語に関するトップカンファレンスICFPに投稿中である。これらソフトウェアに関する新方式の論文の採録は予断を許さないが、実装をともなうものであり、それら機能を含んだSML#言語のリリースを通じて、最終的には、世界にみとめられると確信している。さらに本年度は、データベースを含む外部データのより柔軟な扱いを可能にする動的型付け機構を静的言語にシームレスに統合するための方式とそのコンパイル技術を確立した。この予備的成果は、国内の査読なしの会議(日本ソフトウェア科学会大会)に発表した。査読なしの発表ではあるが、この成果は、学会から高い評価を得て、2019年度の「髙橋奨励賞」を授与されている。現在、これら成果をまとめた論文を関数型言語に関するトップカンファレンスICFPに投稿中である。以上の状況から、研究はおおむね順調に推移していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
開発したほぼ完全な並行・並列ゴミ集め方式の性能評価と改良を行い、メニーコア時代の関数型言語のゴミ集め方式の決定版としての確立を目指す。動的型付け機構に関しては、その機構の一般化と拡張を行うとともに、データベースを含む、種々の外部資源の扱いを可能にする応用研究を行い、現在注目されている統計プログラミングを含む幅広い分野への並列関数型言語処理機能の適用の可能性を拓く研究を行う予定である。さらに、それら成果を統合したSML#言語の開発を行い、種々の分野への宣言的超並列プログラミング技術の普及への貢献をめざす。
|
次年度使用額が生じた理由 |
執行額は、予算額1,258,149円に対して、937.273円と約74%である。予算額に比べて支質額が少なかったこの主な要因は、トップコンファレンス国際会議に採録に至らず、旅費の執行が予定を下回ったことである。昨年度末に2件のトップコンファレンス国際会議へ論文を投稿中であり、これらを含め、次年度は本年度を上回る複数の国際発表を予定しており、繰越分の320,876円は、これらのに活用できる予定である。
|