今年度は、我々が提案している転送方式の公平性評価の実施に向けた活動に注力して研究を行った。我々が提案している手法は、複数の通信経路を特殊な手順で利用して通信効率を高めるため、単一の通信経路を用いる通信や、複数の経路を標準的な手順で用いる通信との公平性を評価することが難しい。より具体的には、一般的な転送方式の公平性にしばしば用いられている Jain's Fairness Index (JFI) では、できるだけ平等な条件で複数の通信が競合している状態を想定しているため、提案手法の方が不公平に帯域を獲得しているように見えてしまう。
我々は、カーネギーメロン大学の R. Ware らの提案している新しい評価指標である HARM (ACM HotNets'19) に基づいて、提案手法の評価実験を実施した。HARM を用いた評価では、従来の JFI に基づいて得られていた結果に反して、我々の提案方式が従来方式の通信に与える実害は少ない傾向にあるということが明らかになった。また、状況によっては、従来の転送方式同士の方がお互いに与える害が大きい(つまり提案方式の方が優れている)という状況もあるということが明らかになってきた。本研究結果については、今後、国際会議において成果発表を行うことを予定している。
本研究課題全体を通じて我々は、マルチパスデータ転送が活用できるシーンの拡大のために重要となる調査や検討を実施した。具体的には、以下の二点を成果として挙げることができる。第一は、我々の提案する転送方式が、現在のネットワークとどの程度親和性を持つかということを検討するための実現可能性調査を実施した点である。第二は、我々の提案する転送方式が他の転送方式に与える影響について、より現実的な指標(HARM)を用いて、当初想定されていたよりも少ない傾向にあることを明らかにした点である。
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