研究課題/領域番号 |
18K11263
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小泉 佑揮 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (50552072)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エッジコンピューティング / 情報指向ネットワーク技術 |
研究実績の概要 |
本年度は、エッジコンピューティング環境において、アプリケーション層における計算のスケジューリングとネットワーク層のルーティングを同時に制御するためのアーキテクチャを設計を目的として、異なる指標の制御が混在する状況を数学的にモデル化し、それに基づいて発見的な制御手法を設計した。さらに、IoT環境におけるエッジコンピューティングを促進するための基盤技術として、情報指向ネットワーク (ICN) において、高速かつ低消費電力なフォワーディングを実現するためのPIT (Pendint Interest Table) の並列処理の解析を実施した。 まず、スケジューリングとルーティングのモデル化については、負荷分散を目的関数とするルーティングと消費電力の削減を目的関数とするルーティングの制御の方針が相反することに着目し、それらを同時に満たす解を得ることを目的として、2つの異なる制御を協力ゲームとしてモデル化した。2つの目的関数を結合した最適化モデルをラグランジュ分解法で分解したサブ問題を分析することで、2つの目的関数を満たすための方針を検討した。検討結果にもとづいて、2つの目的関数を満たす発見的手法を設計した。 次に、ICNにおける高速かつ低消費電力なフォワーディングを実現に向け、フォワーディング処理の並列化の課題となるPITの処理の解析を実施した。ICNのフォワーディングには、エンド端末の識別子を利用しないため、要求者にDataパケットを返送するために各ルータでは、PITと呼ばれるテーブルにDataパケットの返送情報を記録する。フォワーディング処理の並列化をする際には、PITに対する書き込みの排他制御が転送速度と消費電力の点で課題となる。これに対して、排他制御を実施しない場合に発生しうる課題を分析し、一部の場合は排他制御をせずのパケット再送で対応できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、1) ルーティングをスケジューリングを同時に制御するアーキテクチャとアルゴリズムの設計、2) IoTデバイス向けの高速・消費電力フォワーディングエンジン、3) 利用者端末の計算資源供与のためのインセンティブ機構の設計の3つの課題から構成される。本年度は、1) について概ね達成し、さらに、2) については計画より前倒しで着手しており、おおむね順調に進んでいると言える。以下、具体的に進捗を説明する。 1) については、研究実績の概要で議論したように、複数の制御目的を有する制御が混在した状況の解析と、それに基づいた発見的手法の開発が完了している。ただし、制御としてスケジューリングを考えた場合、どの計算をどのノードに展開するかという制御が整数変数、つまり、最適化モデルが整数問題になり求解と分析が困難である。これに対して、現状は整数の条件を緩和した上でモデルを分析している。シミュレーション評価により、緩和の誤差は小さいことは確かめているが、一般的な環境下でも通用するかを評価する課題が残っている。 2) については、フォワーディング処理を並列化する際に生じる排他制御の課題について分析が完了した。ICNではInterestパケット転送時にDataパケットを要求者に返送するための情報をPITに書き込むため、排他制御が必要不可欠である。しかし、排他制御にはアトミックなロック処理が必要であるが、これは一時的に全CPUコアのデータへのアクセスを停止してしまう。したがって、排他制御を必要最低限にすることがパケット転送高速化の鍵である。これに対して、排他制御を実施しない場合に処理の一貫性が満たされなくなる状況を分析し、プログラム停止に繋がる一貫性破綻の課題は一部の処理でしか発生しないことを明らかにした。これにより、排他制御を削減し、フォワーディングの高速化と省電力化の目処が付いた。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度の実施した研究開発成果を、以下の通りに拡張する。 1) ルーティングをスケジューリングを同時に制御するアーキテクチャとアルゴリズムの設計:上記の『進捗状況』において議論したように、スケジューリングを考えた場合に2018年度に開発した協力ゲームのモデルが整数問題となる課題を解決する。具体的には、それに対する整数緩和の影響を分析するとともに、緩和にともなう誤差の影響がない領域を評価によって明らかにする。 2) IoTデバイス向けの高速・消費電力フォワーディングエンジン:2018年度には、PITの処理に関して排他制御をしない場合に、処理の一貫性は保てなくなるもののパケットの再送でリカバリーできる処理が存在することが分かった。これに対して、真に排他制御が必要な処理の組み合わせのみに排他制御をするフォワーディングのプロトタイプを設計し、パケット転送速度の向上と消費電力の削減効果を検証する。さらに、真に排他制御が必要な処理が発生する確率を解析的に分析し、排他制御の影響が小さいことを示す。 3) 利用者端末の計算資源供与のためのインセンティブ機構の設計:インセンティブ機構の初期設計を実施する。具体的には、エッジコンピューティング事業者とIoTデバイスの振る舞いをシュタッケルベルグ競争としてモデル化し、インセンティブを分析する。エッジコンピューティング事業者が先導者としてIoTデバイスにある種のインセンティブを付与し、IoTデバイスは追従者としてインセンティブと自身の制御目的関数を最大化するように合理的に振る舞う環境を想定する。これにより、エッジコンピューティング事業者は間接的にIoTデバイスを制御することが可能になる。この環境において、計算時間などの目的関数を最大化するインセンティブの決定を検討する。
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