研究課題/領域番号 |
18K11263
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小泉 佑揮 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (50552072)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エッジコンピューティング / Internet of Things / リモートアテステーション |
研究実績の概要 |
本年度は、エッジコンピューティング環境における分散計算のモデル化、分散計算における脅威の抽出、分散計算における安全性を担保する検証メカニズムの設計に取り組んだ。 エッジコンピューティング環境では、依頼した計算が正しく実行されていることの担保が重要である。具体的には、エッジノードでは、依頼された計算を実行せずに適当な結果を返却する、あるいは、異なる計算を実行した結果を返却するなど正しい計算を実行しないことに加え、依頼された計算に関する入力からユーザのプライバシ-情報を抽出するという脅威が考え得る。これに対して、IoTデバイスやエッジノードにおいて、動作している全てのプログラムが信頼できることが検証できれば、前述の脅威が発生しないため、計算やプライバシーに対する脅威が発生しないことに着目し、プログラムの検証手法を設計した。これは、Boot ROM、BIOS、ブートローダー、OS、依頼した計算プログラムの順にプログラムが起動していく過程で、Boot ROMとTPM (Trusted Platform Module) などベンダーによる信頼性が担保できる要素を信頼の起点として、順に次に起動するプログラムの信頼性を検証し、全てのプログラムが検証できた結果を計算の依頼者に結果とともに返却することで、利用者は安全性を検証できる。プログラムの信頼性検証には、ライブラリや実行ファイルなどの実行環境全体のハッシュ値を計算し、既知のハッシュ値と同一であればそのプログラムや実行環境には、改竄が加えられていないため、信頼できることを利用する。 さらに、分散計算環境を想定し、エッジノードがある計算を分散実行する状況において、前述の検証手法を分散実行可能なように拡張することで、本課題の目的である超分散エッジコンピューティング環境への適用を可能にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は、超分散型のエッジコンピューティング環境の実現を目的とするものである。1) ルーティングをスケジューリングを同時に制御するアーキテクチャとアルゴリズムの設計、2) IoTデバイス向けの高速・低消費電力フォワーディング、3) 利用者端末の計算資源供与のためのインセンティブ機構の設計の3つの課題から構成される。課題1) については1年目で完了し、課題2) のフォワーディングに必要なデータ構造とアルゴリズムについては1年目に完了している。また、課題3) のインセンティブの設計に必要な分散エッジコンピューティング環境のモデル化についても1年目に完了しており、残る課題は課題2) の分散エッジコンピューティング環境への適用と課題3) のインセンティブ機構の設計である。2年目となる今年度は、2) の後半として安全な分散計算を高速に実現するメカニズムを実現し、課題2) が完了した。これにより残課題は、課題3) におけるインセンティブ機構の設計であるが、これに必要となる分散エッジコンピューティング環境のモデル化は、計画を前倒しして完了している。以上より、研究はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、前述したとおり課題3) のインセンティブ機構を設計し、本課題の目的を達成すると同時に、目的を超え、今年度の研究によって新たに明らかになった分散計算環境における検証の実行時間の課題に取り組みたいと考える。 インセンティブ機構の設計については、1年目にモデル化したエッジコンピューティングとIoTデバイスの関係を拡張し、エッジコンピューティング事業者とIoTデバイスの振る舞いをシュタッケルベルグ競争としてモデル化し、インセンティブを分析する。エッジコンピューティング事業者が先導者としてIoTデバイスにある種のインセンティブを付与し、IoTデバイスは追従者としてインセンティブと自身の制御目的関数を最大化するように合理的に振る舞う環境を想定する。これにより、エッジコンピューティング事業者は間接的にIoTデバイスを制御することが可能になる。この環境において、計算時間などの目的関数を最大化するインセンティブの決定を検討する。 検証の高速化については、現在の方法では次プログラムの実行環境のハッシュ値に基づいて検証している点に着目する。現在は、実行プログラム数分だけハッシュ値の計算とハッシュ値の転送が必要となり、ハッシュの計算と転送が計算速度と消費電力の観点でボトルネックになる。これに対して、課題2) において設計した並列計算の高速化を応用することでハッシュ値の計算を高速化するとともに、ハッシュ値を重畳して圧縮することで検証情報転送の高速化と省電力化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、分散エッジコンピューティング環境に関する研究の国際連携のためにイギリスへ訪問する予定にしていたが、昨今のこの情勢のため出張をキャンセルしたため、そのための旅費相当の不使用が生じた。 次年度に出張が可能であれば、引き続き国際連携のために出張を検討する。不可能であれば、論文誌や国際会議などの質を高めるための校正を検討する。
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