研究課題/領域番号 |
18K11264
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
中川 匡夫 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (50530804)
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研究分担者 |
笹岡 直人 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (80432607)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 直交誤差 / IQインバランス / シングルキャリア / ブラインド推定 / ブラインド補償 |
研究実績の概要 |
無線通信のさらなる高速化を実現するための信号周波数の広帯域化は,直交変調器・直交復調器の位相誤差・振幅誤差(IQインバランス)の受信信号帯域内の周波数偏差を増大させ,信号品質を劣化させる.このような周波数依存性のあるIQインバランスを推定・補償するためには狭帯域な周波数ごとに推定・補償する必要がある. OFDM信号の有する周波数依存性のあるIQインバランスに対しては,数十から数百シンボルのトレーニング信号を用いないブラインド推定・補償の適応アルゴリズムが提案されている.一方,OFDMよりも低消費電力化が可能なシングルキャリア信号に対しては,ブラインド推定・補償は困難であった.その理由は周波数依存性のあるIQインバランスを推定・補償するのが周波数成分ごとの周波数領域である一方,シングルキャリアの周波数領域での信号点配置は,ブラインド推定アルゴリズムであるCMAやCNAが適用できるような円周や四角形に沿って広がった配置とならないことによる. そこで平成30年度は,周波数依存性のあるIQインバランスを有するシングルキャリア信号に対するブラインド推定補償技術を検討し,提案した. 令和元年度の本研究においては,線形,放物線状など異なる周波数依存性を持ったIQインバランスを与えて提案方式の有効性を検証した.この結果,一様な周波数依存性を与えた時に比べて劣化するものの,繰り返し回数を5回程度行うことでトレーニング信号を用いた場合と同等の特性にまで補償できることをあらたに明らかにした. 次に周波数オフセットがある環境下において,周波数オフセットと,今年度提案した繰り返し判定指向形アルゴリズムを同時に逐次的に補償する受信信号処理アルゴリズムを検討し,周波数オフセットの補償ブロックを実装した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
周波数依存性のあるIQインバランスを有するシングルキャリア信号に対するブラインド推定補償技術として当初計画では,時間領域で全周波数帯域の平均的な特性のCMAでおおまかに適応フィルタのウェイトを求めて初期値とし,時間領域で復調・判定を行った後に判定後の信号を周波数領域に変換し,周波数領域で狭帯域な周波数成分ごとに先の初期値からウェイトを更新して推定・補償する方法を計画していた.しかしながらシミュレーション系を構築しアルゴリズムの検討を進める中で,当初計画で必要と考えていたCMAを不要とし,判定を時間領域,IQインバランスの推定・補償を周波数領域で行い,その処理を繰り返すという時間領域と周波数領域にまたがる繰り返し判定指向形アルゴリズムをあらたに考案し,さらにシミュレーションによって3回程度の繰り返し処理によってほぼトレーニング信号を用いた場合と同等の伝送特性が得られるという良好な特性を得た.これらの検討によって,周波数オフセットのない環境下において,周波数依存性のあるIQインバランスを有するシングルキャリア信号に対するブラインド推定補償技術を確立した. 今年度はあらたに複数の異なる周波数依存性を持ったIQインバランスを与えて提案方式の有効性を検証した.この結果,一様な周波数依存性を与えた時に比べて劣化するものの,繰り返し回数を5回程度行うことでトレーニング信号を用いた場合と同等の特性にまで補償できることを初めて明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
今後は周波数オフセットがある環境下において,周波数オフセットと提案している繰り返し判定指向形アルゴリズムを同時に逐次的に補償する受信信号処理アルゴリズムを検討し,確立する.現在,周波数オフセットの補償ブロックの実装を完了している.さらに位相補償のブロックを実装し,繰り返し判定指向形アルゴリズムのループと一体として動作するあらたなアルゴリズムを確立する.並行してMIMOについての検討を行う. さらにここまでに確立した信号処理技術を実験によって検証する.任意信号発生器で周波数依存性のある直交誤差を発生する広帯域なベースバンド信号を発生し,RFの直交変調器を変調して送信し,受信側ではRFの直交復調器を用いてベースバンド信号に戻してデジタル・ストレージ・オシロスコープに蓄積してPC上でオフライン信号処理を行う.信号処理技術を検証し,アルゴリズムの確からしさと現実のハードウェアで考慮していない要因の有無を明らかにし,必要に応じて信号処理アルゴリズムを再度ブラッシュアップする.
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次年度使用額が生じた理由 |
測定器としてPCにUSB接続することで高性能な計測と安価な価格を両立させた製品を検討・購入したことにより,当初見積もりよりも低い価格で購入できたため. 2020年度に複数の論文発表を予定しており,差額分を論文掲載料とする予定である.
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