研究課題/領域番号 |
18K11301
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研究機関 | 東京情報大学 |
研究代表者 |
西村 明 東京情報大学, 総合情報学部, 教授 (30286182)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ステガナリシス / ステガノグラフィ / LSB / ナイキスト周波数 / 信号対雑音比 / 帯域分析 / 線形予測 |
研究実績の概要 |
画像データ(JPEG, BMP)と音波形データ(WAV, AU)に情報を秘匿する LSB(最下位ビット)置換法の一種である Steghide を採り上げ、音声波形データ(WAV)に対する情報秘匿の有無を、秘匿前波形データ無しで識別するステガナリシス手法を検討した。 従来研究では、信号パワーの小さいナイキスト周波数近傍と非発声部に生じる情報秘匿に伴う雑音を、識別の手がかりとしていたことが、Steghide による情報秘匿に伴う音響信号スペクトルの変化から明らかになった。この特徴を利用して、高周波数成分の統計量を効果的に利用する新たなステガナリシスを提案し、その性能を従来法と比較した。音声信号に対してシミュレーション実験を行った結果、背景雑音の強度とアンチエリアシングフィルタの特性が識別性能に影響を及ぼしていることを示した。また、音楽信号に対してもシミュレーション実験を行い、音楽開始時の冒頭無音区間が識別に重要であることが分かった。さらに、提案法は従来法より格段に識別性能が高いことを示した。 LSB置換法では主にLSB値が置換されることで情報が秘匿される。情報秘匿が行われる前のLSB値を予測することができれば、情報秘匿済み信号に対してLSB値を予測したときには、LSB値が置換されることでその予測正答率は下がると考えられる。このため、線形量子化されたディジタル音響信号の下位ビット値を、上位ビット値から予測する手法を新たに考案した。さまざまなジャンルの音楽信号100曲を対象に分析した結果、予測正答率は予測対象ビットが下位になるに従い低下するが、LSB値の予測正答率は50%を有意に超えることが分かった。よって、LSB置換によるLSB値予測正答率の低下により情報秘匿の有無の識別が可能となることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度の研究実施計画では、従来ステガナリシス手法を実装し、それを改善したステガナリシス手法を提案し、それらの識別性能比較を計画していた。この性能比較をシミュレーション実験によって実施した結果、従来手法の特徴と問題点を明確にした上で、提案手法の性能が高いことを示すことができた。また、さらなる識別性能の向上のために、LSB値の予測という既存研究にない新しい手法を開発し、LSB値の予測がある程度可能であることを示した。よって、おおむね順調に研究は進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度に新たに開発したLSB予測手法によって、LSB置換による情報秘匿に起因するLSB値予測正答率の低下を検出し、情報秘匿の有無の識別が可能であるかどうかを調べる。また、複数の音響情報秘匿技術に対して、これまで開発したブラインド検知技術によって検知が可能かを検証し、さらなる改善を行う。 MP3やAACなどの知覚符号化音響データへ情報秘匿する手法は複数提案されている。なかでも、MDCT係数やスケールファクタといった符号化データの統計的特徴に着目した従来のステガナリシスが効果的でない秘匿手法に対して、有効なブラインド検知手法を開発する。具体的には、符号化データを復号化した後の信号に対して、先に開発したステガナリシスを適用する方法、および再度符号化した際のハフマンテーブルの変化および情報量の変化に着目したステガナリシスを提案し、その有効性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた国際会議の開催場所は、研究計画段階では不明であったが、実際には大韓民国済州島であった。よって、ヨーロッパあるいは北米開催を前提に予定していた旅費交通費に剰余が生じたため。
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