研究課題/領域番号 |
18K11303
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
栃窪 孝也 日本大学, 生産工学部, 教授 (60440038)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 秘密分散法 / しきい値法 / アクセス構造 |
研究実績の概要 |
暗号技術が利用されている機器やシステムにおいて、その安全性を保つためには暗号化・復号で利用する鍵の管理が不可欠である。秘密分散法は、暗号化・復号で利用する鍵の管理に非常に有効な技術であり、鍵の管理が必要な機器やシステムすべてが秘密分散の適用範囲であるといえる。秘密情報を復元する権限を持つ管理者のグループ(アクセス集合)の集まり(アクセス構造)という観点でみると、(k, n)しきい値法のアクセス構造は、n人の分散情報の管理者のうち、任意のk人以上のグループの集合となり、非常に限定的な場合のみを実現していることになる。また、Tassaは、(k, n)しきい値法のアクセス構造よりも広いクラスのアクセス構造を最適に実現可能な階層型秘密分散法を提案している。一方、アクセス構造を限定しない秘密分散法(一般アクセス構造を実現する秘密分散法)に関する研究も数多く行なわれている。元の秘密情報と管理者が管理する分散情報との比(情報比)に着目すると、しきい値法や階層型秘密分散法のように方式が最適な場合の情報比が1であるのに対し、これまで提案されている一般アクセス構造を実現する手法の情報比は非常に小さくなり、効率的ではなかった。本研究では、しきい値法や従来の階層型秘密分散法では実現できないアクセス構造を対象とし、属性等を考慮したアクセス構造において管理者が保持する分散情報の数を削減可能な効率のよい秘密分散法を求めることが目標である。 2020年度は、属性を考慮したアクセス構造を効率よく実現可能な秘密分散法の具体的な構成法を明らかにするために管理者4人のアクセス構造から構成可能な管理者5人のアクセス構造を明らかにした。さらに、秘密分散法を画像に応用した視覚復号型秘密分散法のシェア画像にアクセス構造の階層構造の概念を拡張してシェア画像にも情報を埋め込むことが可能な拡張視覚復号型秘密分散法の詳細な性能評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、当初のターゲットである管理者が5人の180通りのすべてのアクセス構造に対して岩本らの(k, n)しきい値法と整数計画法に基づく秘密分散法を実装して、最適となるアクセス集合の数は、平均割り当て数で効率を評価する場合は31通り、最大割り当て数で効率を評価する場合は14通りであることを明らかにした。また、岩本らの(k, n)しきい値法と整数計画法に基づく秘密分散法にStinsonの提案した分割構成法を組み合わせることで、平均割り当て数で効率を評価する場合は70通り、最大割り当て数で効率を評価する場合は79通りのアクセス集合で岩本らの手法を単体で適用するより効率が良いことを明らかにした。さらに、岩本らの手法を拡張した江利口らの手法も同様に管理者が5人の180通りのすべてのアクセス構造に適用して効率を評価した。そして、属性を考慮したアクセス構造を効率よく実現可能な秘密分散法の具体的な構成法を明らかにするために管理者4人のアクセス構造から構成可能な管理者5人のアクセス構造を明らかにした。 しかしながら、新型コロナウイルスの影響で研究協力者(大学院生)による計算機実装・評価を実施することができず、2020年度に計画していた属性を考慮したアクセス構造を効率よく実現可能な秘密分散法の検討を行うことができなかった。今後は、これまでの管理者数の少ないアクセス構造に対する評価や対応関係を基に管理者数の多い実社会でニーズが高いと考えられるアクセス構造を効率よく実現可能な秘密分散法の具体的な構成法を提案し、さらに、その効率を評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、しきい値法や従来の階層型秘密分散法では実現できないアクセス構造すべてを対象にするのではなく、実社会でニーズが高いと考えられる属性までも考慮した階層構造のアクセス構造に限定して効率のよい秘密分散法を求めることが目標である。 これまで、計算機を使って、岩本らの(k, n)しきい値法と整数計画法に基づく秘密分散法、岩本らの手法を拡張した江利口らの手法、さらに、岩本らの手法に Stinson の提案した分割構成法を適用した手法を当初のターゲットである管理者が5人の180通りのすべてのアクセス構造に対して評価している。さらに、(k, n)しきい値法に基づき分散情報を取得していた従来の一般アクセス構造を実現する秘密分散法をTassaの階層型秘密分散法に基づき分散情報を取得するように改良して管理者が保持する分散情報の数、および、分散情報を求める際に利用する秘密分散法の回数を削減可能な手法を提案している。そして、属性を考慮したアクセス構造を効率よく実現可能な秘密分散法の具体的な構成法を明らかにするために管理者4人のアクセス構造から構成可能な管理者5人のアクセス構造を明らかにしている。 今後は、管理者が5人の場合の評価結果を基にTassa の階層型秘密分散法の手法や一般アクセス構造を実現する秘密分散法での手法を拡張することで、属性を考慮したアクセス構造を効率よく実現可能な秘密分散法の具体的な構成法を提案し、さらに、その効率を評価する。本研究で得られた成果により、実社会においてニーズの高いアクセス構造を効率よく実現可能となり、暗号化・復号で利用する鍵の管理が必要な機器やシステムへの秘密分散法のさらなる実用化に大きく貢献できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルスの影響により2020年度に予定していた研究協力者(大学院生)による改良した一般アクセス構造を実現する秘密分散法の管理者が保持する分散情報の数、および、分散情報を求める際に利用する秘密分散法の回数についての計算機実装・評価を実施することができなかったためと研究成果の海外発表ための出張が中止となったためである。 差額分については、2021年度に改良した一般アクセス構造を実現する秘密分散法の研究協力者(大学院生)による計算機実装・評価の実施で使用する計画である。また、2021年度も研究成果の国際学会での発表のための海外出張は実施困難なため、研究成果の発表のための海外出張は取りやめて国内外の学会において研究成果をオンラインで発表することにより差額分を使用する計画である。
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