研究課題/領域番号 |
18K11316
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
義久 智樹 大阪大学, サイバーメディアセンター, 准教授 (00402743)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ストリーミング配信 / エッジコンピューティング |
研究実績の概要 |
本研究では、エッジコンピューティング環境を活用したエッジ指向ビデオオンデマンドシステムによる無中断映像再生の実現を目的とする。エッジコンピューティング環境とは、インターネットの末端に接続された長時間稼働するエッジサーバを積極的に用いるコンピューティング環境である。再生端末がエッジサーバから映像データを受信することで、映像の配信サーバから受信する場合と比べて、配信サーバにかかる処理負荷および通信負荷を軽減できる。本研究では、以下の項目に分けて研究を効率よく進めた。 項目1「再生フェーズおよび待機フェーズにおける映像配信技術」:配信サーバの通信量を削減することで、配信サーバはエッジサーバや再生端末に映像データを短時間で送信できる。このため、再生端末は高確率で再生開始時刻までに映像データを受信でき、再生中断回数を削減できる。そこで本研究では、フレームレート依存エッジ伝送を提案、拡張してきた。 項目2「待機フェーズにおける映像配信技術」:待機フェーズにおいて、利用者が視聴する可能性が高い映像のデータをエッジサーバが配信サーバからあらかじめ受信することで、再生フェーズにおける配信サーバの通信量を削減して再生中断回数を削減できる。そこで本研究では、嗜好ベースプリ受信を提案、拡張してきた。 項目3「再生フェーズにおける映像配信技術」:再生フェーズにおいて、再生端末の再生中断回数や再生位置といった映像再生状況と、エッジサーバの受信済みデータサイズや映像数といった映像データ受信状況に、映像品質を適応させることで再生中断回数を削減できる。そこで本研究では、再生受信状況適応型映像品質を提案、拡張してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スマートフォンでYouTube動画の視聴中に再生が中断されることがあるように、現状のビデオオンデマンド配信では、再生端末の数が多くなると再生が中断される。既存研究では、再生される映像データをあらかじめ受信することが難しく、再生中断回数を十分に削減できなかった。本研究では、エッジコンピューティング環境を活用した新しいビデオオンデマンドシステム(エッジ指向ビデオオンデマンドシステム)を全体構想とし、再生中断のないビデオオンデマンド配信という誰もが不可能と考えていた非常に困難な問題に取り組んでいる。本年度は、この目的を達成するために、前年度に打ち出した「フレームレート依存エッジ伝送」「嗜好ベースプリ受信」「再生受信状況適応型映像品質」を拡張し、伝送木の動的作成、エッジサーバの性能考慮、人工知能技術の適用を行った。これらの拡張は当初予定していたものではなく、エッジコンピューティング環境をよりビデオオンデマンド配信に適した環境へと進化させている。 本研究の成果は、国際的に著名な情報通信技術に関する学会IEEEが主催する大規模な国際会議IEEE COMPSACに採択され、発表している。IEEEが主催する家電に関する国際会議IEEE GCCEにも採択され、発表している。また、情報学に関する国際学会INFSOCが開催する国際会議IWINで発表したところ、研究成果は特に優秀と認められ、国際論文誌への推薦を得ている。さらに、関連する技術は国際的な学術出版社のブックチャプターとしてまとめられた。以上の理由から、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
エッジ指向ビデオオンデマンドシステムでは、エッジサーバは、接続されている再生端末が映像を再生している間(再生フェーズ)や再生前(待機フェーズ)に、複数の映像ファイルの一部のデータを配信サーバや他のエッジサーバから受信して保存する。利用者が視聴したい映像の再生を再生端末に指示すると、再生端末は再生する映像データをエッジサーバから受信する。エッジサーバが映像データを保持していない場合には配信サーバから受信する。以下の項目に分けて進めてきた研究を最終年度には統合する。 項目1「再生フェーズおよび待機フェーズにおける映像配信技術」:再生中断回数を削減するために、フレームレート依存エッジ伝送を提案している。フレームレート依存エッジ伝送では、エッジサーバが配信サーバからだけでなく他のエッジサーバから映像データを受信することで配信サーバの通信量を削減する。他の研究項目との統合に伴い、両フェーズにおいて嗜好や再生受信状況をを考慮するように本技術を拡張する。 項目2「待機フェーズにおける映像配信技術」:再生中断回数を削減するために、嗜好ベースプリ受信を提案している。嗜好ベースプリ受信では、エッジサーバは、利用者の登録チャンネルや過去に視聴した映像を基に嗜好に合った映像を抽出して優先的に受信する。統合に伴い、待機フェーズと再生フェーズで同じデータを受信する場合があるため、フェーズ切替時でも通信量を効果的に削減できるように本技術を拡張する。 項目3「再生フェーズにおける映像配信技術」:再生中断回数を削減するために、再生受信状況適応型映像品質を提案している。統合に伴い、フェーズ切替時に通信が不安定になり映像品質が頻繁に変化する問題が発生するため、フェーズ切替時でも安定した動作を行えるように本技術を拡張する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況に記述したとおり、当初予定していなかった伝送木の動的作成、エッジサーバの性能考慮、人工知能技術の適用により、エッジコンピューティング環境をよりビデオオンデマンド配信に適した環境へと進化させる技術の開発に至った。これらの研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額が異なり、やむを得ず次年度使用額が生じた。次年度使用額が生じたが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含めて当初予定を拡充しつつ計画を進めていく。 物品費:プログラム開発および論文執筆用のパソコンや、エッジサーバ、再生端末といった消耗品等を購入するために使用する。 旅費:移動が可能な範囲で国内調査、国内成果発表、外国調査、外国成果発表のための旅費として使用する。人件費・謝金:外国成果発表を効果的に行うための論文校閲費等に使用する。その他:著名な論文誌で研究成果を発表するための論文掲載料や学会参加のための参加費に使用する。
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