建築物の耐震性評価のために,地盤と建物の地震動応答を求める数値シミュレーションが行われている.このシミュレーションでは,有限要素による計算格子に対し,Newmark-β法により各格子点における運動方程式を離散化し,各時刻で得られる大規模で疎な連立一次方程式を解き時間発展させる.不規則な係数行列を持つ方程式は,建物及び建物と地盤の境界部分に対応する部分行列と地盤に対応する部分行列に分け,コレスキ―法による部分前処理,及びブロック対角行列スケーリングによる部分前処理を適用した共役勾配法を用い,逐次計算によって解かれている.前処理にコレスキ―法を適用する部分は行列方程式の直接解法ライブラリIntel MKL/PARDISOを利用している. 本研究では,このシミュレーションコードを,x86アーキテクチャプロセッサにベクトル型マルチコアプロセッサを付加させた並列計算機SX-Aurora TSUBASAシステム上で並列化することによって高速化した.2022年度は,ベクトルホスト部(VH)及びベクトルエンジン部(VE)によるハイブリッド並列化を継続した.コレスキ―法による部分前処理に対しては,VH部でPARDISOを利用し,対角スケーリングによる前処理部分や共役勾配法のその他の計算部分はVE部でベクトル計算した.VH部で,1つのMPIプロセス(16スレッド),VE部で2プロセス(8スレッドx2)のハイブリッド並列計算の結果,1時間ステップの計算時間は約4分の1に短縮された.修正コードでは,ベクトル計算向きの行列データ構造に変更する処理を行うため時間発展ループ以外の計算時間が増加したが,最初から行列データ構造を変更しておけば良く,高速化の観点では問題ではない.コード改良により全体の計算時間は短縮されることが明らかとなった.
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