研究課題/領域番号 |
18K11333
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
工藤 和恵 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (30505574)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 量子アニーリング / グラフ彩色 / 組み合わせ最適化 |
研究実績の概要 |
本研究では、量子コンピューティングの分野の中の量子アニーリング方式を主軸として研究を進めている。特に、組み合わせ最適化問題の計算の効率化に注力している。典型的な組み合わせ最適化問題だけでなく、機械学習の手法の一部に使われる問題を含んだ、幅広い応用先も視野に入れている。 本年度取り組んだ主要な研究の一つは、グラフ彩色問題に量子アニーリングを適用する際に起こりうる局在現象である。グラフ彩色問題に制約量子アニーリングを適用したモデルは、局在現象を起こすアンダーソン模型と類似性がある。このモデルに関して、量子多体系の分野で話題となっている量子多体局在や、計算の効率との関連などについて議論した。このモデルでは計算に使う空間の次元が非常に大きくなるため、数値計算できる系のサイズが小さい。そのため、数値的に局在転移まで示すことはできないが、従来とは異なる視点から、局在現象を議論した。量子多体局在は近年盛んに研究されているにもかかわらず、その実態は未解明のままである。その理由の一つは注目する物理量にあり、どの視点から局在現象を議論するかによって解釈が異なりうることを、本研究の結果は示唆している。 近年は、量子アニーリング方式に着想を得た専用計算機が続々と開発されている。この計算機を使うためには、解くべき問題をイジング模型かQuadratic Unconstrained Binary Optimization (QUBO)形式で定式化する必要がある。本研究では、機械学習でもよく使われるクラスタリング、行列分解、ブースティングなどの手法を、専用計算機を用いて実装する研究も進めている。従来手法よりも過学習が起こりにくいなどの利点があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子アニーリングにおける局在現象に関する新たな視点を提案することができた。論文発表までに時間がかかっているが、学会や研究会での発表で研究成果を発表できている。 専用計算機を用いた研究についても、順調に成果が出てきている。量子アニーリングマシンが大規模に使えるようになれば、本研究で得られた知見が役に立つことが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も計画通りに、量子アニーリングに関する量子ダイナミクスの研究、およびやイジング模型を用いた具体的な問題への適用を行う。これまでは、研究計画の前半として、典型的な問題の基礎的な研究に重点を置いていた。今後は計画の後半にあたるため、計算の効率化を図るための定式化に、より重点を置いて研究を推進する。 量子計算に関する環境はここ数年で大きく進展している。その動向に注目し、適応していくことが重要と考えられる。大規模な量子計算機や専用計算機が実現する未来を見据えて、現在使える計算機で問題を解く手法を研究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定だったワークステーションよりも、PC端末を優先して購入する必要が生じたため、金額の大きなワークステーションの購入を先送りにした。また、年度末に予定していた出張が軒並み中止となったことも大きい。この使用額は、ワークステーションの購入と、今年度できなかった研究成果の発表にあてる計画である。
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