本研究は、計算科学に現れる大規模固有値問題を高速高精度に解くためのアルゴリズムの研究を行う。本年度は、以下の研究に取り組んだ。 一般化エルミート固有値問題を高速高精度に解くためのアルゴリズムの開発に取り組んだ。具体的には、修正量に基づく反復アルゴリズムの研究を行った。本アルゴリズムは、近似解を反復毎に生成し、精度の良い解へ収束させる。この際、近似解を厳密解へ修正するための成分である修正量を計算するが、この修正量の計算法がアルゴリズムの速さに影響を及ぼす。本研究では、重み付きノルムの下で修正量を求めるための方程式を導出した。また、本修正方程式に対する近似計算手法を考案することで、独自のアルゴリズムを開発した。 上記のアルゴリズムに対して、その性質を明らかにした。提案法は、重み付きノルムを利用することで、重みを考慮しない場合に比べて、反復毎に必要な近似解計算を高速に実行可能であることを示した。さらに、入力行列の構造を利用することで反復毎の計算量を減らすことが可能な例を示した。 修正量の計算がアルゴリズムの収束速度に及ぼす影響を数値的に調べた。修正量を精度良く求める場合、反復毎の計算量が増加するが、(近似)解へ収束するまでに要する反復回数は少なくなることが期待される。しかし、既存のアルゴリズムは、修正量を正確に求めた場合、収束に要する反復回数は必ずしも減少せず、むしろ増加することもあった。一方、本研究の提案するアルゴリズムは、修正量の計算を正確に行うほど、収束に要する反復回数が減少した。数値実験の結果、既存のアルゴリズムに比べ、提案法は少ない反復回数で精度の良い近似解へ収束し、高速に固有値と対応する固有ベクトルを求めることができた。
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