研究課題/領域番号 |
18K11344
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
齋藤 暁 崇城大学, 情報学部, 准教授 (70513068)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 行列積状態 / 多倍長精度計算 / 量子回路 / 古典シミュレーション / 密度行列繰込群 / 素因数分解 / ベンチマーク |
研究実績の概要 |
今年度はこれまでのシミュレーション研究の結果を整理しつつ、シミュレーションライブラリのライブラリ側での並列化を進めた。まず、昨年度数値実験環境の整備のために構築した7ノードのクラスタマシンについて、詳細な構築過程とLinpackベンチマークテスト結果等を記述した紀要論文を執筆した。課題の目標に直接関連する成果ではないが、ごく最近のLinux環境でこの種の構築の指針になる文献が見当たらなかったため、コミュニティへの貢献になったと考える。次に、ライブラリのバックエンドとして開発している多倍長精度行列計算部分は他の研究者達によって当初想定していなかった用途である実験系のデータ解析に使われるようになっており、陽電子-電子対消滅の周波数応答解析等に利用されている。バックエンド部分は特徴としてデータ読み込みが容易であることと任意精度でフーリエ解析等データ解析が行える点が実験家の需要に合致したと考えられる。これを踏まえて実験家向けの機能追加の構想を研究会で発表した。最後に、量子アルゴリズムの数値シミュレーションに要求される計算精度について、アルゴリズム毎、計算手法毎に議論した学会発表を行った(新型肺炎流行の影響で開催中止になったが発表は成立)。他の研究者の主張の中には数値繰込群を用いたシミュレーションが倍精度で十分であるかのようなものもあり、それについては批判的に議論した。以上のように、本題である素因数分解の解法としての数値繰込群の評価に直接つながる成果は今年度は得られなかったものの、副次的な成果は得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はバックエンドライブラリの基本的な多倍長精度行列演算をOpenMPによって並列化する部分の開発を進めるとともに、その部分を切り出してユーザが選択的に利用できるように改良を進めた。ライブラリ開発の進捗に合わせた論文執筆ができていないため、表面的には状況が見えにくくなっている点は認識しているが、より大規模な量子回路シミュレーションが行えるように開発は継続して行っている。ただGPGPUおよびOpenMPによる並列化の効率が悪いためシミュレーションの規模拡大は当初想定したほどにはなっていない。昨年度の報告書で予定しているとしたMPIを用いた固定精度での並列化は完成に至らなかった。 数値実験について述べると、今回学会発表のために様々な量子アルゴリズムの数値シミュレーションに必要な計算精度を見積もった結果、競合する研究の中で倍精度で十分であるとするものについては明らかに精度不足で比較検討の俎上にも乗らないと確信した。一方で、理論的に量子素因数分解のための回路中の各部分のシミュレーションの難しさを見積もる点については、今年度は進捗がなかった。 以上から、総じて当初の計画に沿って研究は着実に進んでいるが、決定的な数値的または解析的結果は得られておらず、また、論文発表の件数が足らないことを踏まえて、やや進捗は遅れていると認識している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から懸案のGPGPU使用時の計算時間が計算機構成によってばらつく点に加えて、2019年度はOpenMP使用時の並列化効率が上がらない状況にあり、2020年度はシミュレーションライブラリの全体的な並列化効率を高めるのが課題の一つである。ただこれは純粋に技術的な課題であり、これに拘泥して本研究課題の本題である素因数分解問題に対して数値繰込群が高速解法たり得るかを評価することをないがしろにしたりはしない。量子回路のサイズに対してCPU時間をプロットしたときに、解法自体の計算量が見えているのか行列演算部分の並列化効率が大きく影響しているのかを明瞭にする必要はある。また、研究発表について述べると、競合するグループはCPU時間について特段傾向を言及できなくても論文を出版しているため、私も途中経過であってもこれまでに蓄積したデータを開示するという意味合いで論文を執筆すべきと思われる。 次に、理論研究についてであるが、昨年度報告書では、シミュレーションデータを解析して巾乗剰余回路中でシミュレーションコストが支配的な部分を特定してから解析をするとしていた。今後は、別のアプローチとして、巾乗剰余回路が写像として数値繰込群のデータ構造へ作用するときにどれほど構造が複雑化するか、純粋に数理的に扱うことも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文発表が掲載料がかからない紀要論文であったことと、国際会議への投稿が不採択となったことでやや大きな残額が生じた。スーパーコンピュータの使用料が当初計画より数万円少なく収まったことと、クラスタマシンの保守部品の購入を小額に抑えたことも要因である。2020年度へ繰り越した分は、国際会議の参加費、論文出版費用、クラスタマシンの保守部品の購入費用に充てる予定である。
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備考 |
開発中のソースコードは、ライブラリのウェブサイトからリンクしているGitレポジトリに置いている。
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