本研究の目的は、日本語母語話者が内的に持つ音声の時間構造を処理する機構を明らかにし、非母語話者の学習者に母語話者並みに自然な日本語を習得する鍵を与えることである。人間が、時間処理機能に特にすぐれた聴覚の性質を音声コミュニケーションにおいてどのように利用しているかを解明するのがこの研究課題の根底にある問題意識である。日本語学習者の多くが習得に困難を感じる特殊拍すなわち長音、促音、撥音は時間的側面の処理を必要とする点で共通している。これらを体系的に含む音声データに対して、人の聴覚の時間分解能に匹敵する正確さを持つ時間情報ラベルを与えてデータベースとして整備し、この情報を用いて時間知覚に関する仮説を検証することで、最も有望な仮説に則った時間構造処理機構モデルを構築する。学習者自らが音声を生成・知覚するスキルを磨くために役立つとともに,母語話者音声では、コミュニケーションの量と質を時間的側面から定量的に評価する等の応用が見込まれる。2023年度は、主にこれまでのデータのスクリーニングにおいて判明した不備を取り除く作業に注力したが、データセットに対して時間情報ラベルを与える作業も継続し、さらに、本研究の基礎をなす時間構造処理仮説を従来モデルと比較、検証するため、モデルに基づく音声刺激を用いた実験を実施した。対象とする特殊拍の拍種は、これまでの長音・短音(非長音)、促音・非促音の各対に加えて、撥音・非撥音の対を含めて行った。
|