研究課題/領域番号 |
18K11395
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
井須 尚紀 三重大学, 工学研究科, 招へい教授 (50221073)
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研究分担者 |
小川 将樹 三重大学, 工学研究科, 助教 (30772644)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動揺病 / 生体計測 / 共分散構造分析 |
研究実績の概要 |
本研究は、自動車の自動運転実用化後に予想される車酔い増加に対応すべく、自動車搭乗中の個人が自身の不快を認識するよりも前に、動揺病(乗物酔)の発症を予測・検出し、乗車中の快適性を保ち、感覚知覚能力の低下を未然に防ぐことが目的である。今年度は、データ拡充による全体的な予測精度の向上可能性を確かめる実験を行った。また、昨年度の準備を基に、今年度は個人ごとの不快感の予測についても再挑戦する予定であったが、一昨年度末からの新型コロナウィルス感染症の影響により、実施することができなかった。 昨年度及び一昨年度は、不快感に関する主観評価値が想定よりも狭い範囲に分布していた。我々は、その改善が不快感主観評価値の推定における精度向上に資する一要因と考え、刺激と実験手法の改善を行った。実験参加者に運転操作を求めるドライビングシミュレータの操作シーンについては、昨年度作成した60種類のシーンの中から十分に生体信号及び主観評価値の変動が得られるよう、5種類のシーンを抽出した。シーンの抽出には昨年度実施した実験の結果及び各シーンの予備観察結果を用いた。ただし、各シーンとも、主観評価値の変動が大きくなるよう、観察と調整を行った。 不快感主観評価値の分散については、実験者による観察の他に、複数名の実験参加者を得て、ほぼ想定した通りに得られた。また、比較的高めの不快感を報告した個人については、良い精度での推定も得られた。そのため、今年度に施した実験手法や操作シーンの調整は成功であったと考えられる。全体的な進捗という点で考えれば、今年度はやはり新型コロナウィルス感染拡大による影響が非常に大きかったと言わざるを得ない。それでも、実験内容を絞ることで、昨年度の推進方策に記載した“実験者による観察”から一段階進み、実験者以外の複数名に対して実験を実施できたことはポジティブな要素であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度末の状況から、事前の計画や方針の立案については、十分に検討ができていた。当然ながら、新型コロナウィルスの影響についても、様々な可能性を検討していた。しかし、本研究における実験は“人を対象とする”ことが欠かせないため、新型コロナウィルス感染拡大による影響を完全に回避することはできなかった。 本研究では、条件検討の時点から、学内の実験室に設置された大型の設備や専門的な機器の使用が必須である。そのため、開始前から新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けていたが、状況に併せて臨機応変に予定を変更することで、遅れを小さくすることには成功した。しかし、実験開始後には、その影響を小さくとどめることは困難であった。冒頭でも触れた通り、昨年度末の時点から、このような現状となる可能性については十分に予測しており、研究計画を練り直していた。しかし、感染拡大防止のための準備や感染拡大時の緊急対応による遅れを回避する方法は無く、必然的に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度末に生じた新型コロナウィルスの影響は未だに続いており、今後も本研究の推進において大きな障害となることは間違いない。また、この現状から、大量の実験参加者を募って長期的に参加を求めるような実験の実施はあまり現実的ではない。しかしながら、本年度、実験者以外の個人に対する実験を行ったことで、新型コロナウィルス影響下における実験遂行の手順等を整えることができた。そのため、今後は今年度よりも積極的に実験参加者を募る必要がある実験の実施を考えている。 具体的には、①今年度の調整では対応が困難と考えられた、比較的低い不快感評価値における推定制度の向上方法の模索と、②個人差への対応による推定制度の向上の、いずれかを実施することを予定している。両者はアプローチの方向は異なるが、いずれも、本研究の最大の目標である「不快を認識する前に動揺病(乗物酔)の発症を予測・検出する」ことに向けた方策である。当然ながら両者とも実行することが理想ではあるが、現在の新型コロナウィルス感染拡大状況から、それは困難であると考えている。 また、昨年度は参加を予定していた国際学会が中止となる等の影響があり、成果の発表についても、想定よりも少なくなってしまった。そのため、今年度はオンラインでの学会発表に加えて、学術論文の公開に向けても尽力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの蔓延により、本年度は当初より、あまり大々的には実験ができない想定であった。しかしながら、昨年度、一昨年度の結果から、実験刺激や手法の改善については方針が立っており、実験を完全に停止することも妥当とは言えない状況であった。そのため、新型コロナウィルスの感染状況や、本研究の推進場所である三重大学の対応方針及び規定と照らし合わせつつ、非常に緩やかながらも、実験を進めていくことを決断した。 ただし、本研究における実験の特性上、大きく制限を受けることは容易に予想された。また、研究成果の公表においても、想定外に中止の判断となった学会等があり、その点でも、研究活動の縮小を余儀なくされた。そのため、次年度以降の状況の好転や、国内外の状況対応の進歩を期待し、本研究のまとめとなる実験の遂行と成果の公表を次年度に行う判断を下した。 次年度は、より多数の実験参加者の募集を前提とした実験の遂行と、積極的な成果の公表に努める。当然ながら、助成金はそれらに充てることを第一に考えている。他には、生体信号計測用の電極など、実験に用いる消耗品の一部への使用も予定している。
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