ユーザの周囲を映像で覆ってしまう没入型ディスプレイにおいて,頭部運動を伴った視線誘導を目的とする.2022年度の研究概要は次の通りである. 1.時間解像度制御による視線誘導:2022年度に引き続き検証を進めた結果,フレームレートの低い領域に注意が向く傾向が得られた.この現象は,スマートフォンなどの画面のスクロール操作において,画面のスクロール速度が遅くなったときに引っ掛かりのような抵抗力を感じることと類似する.そこで,HMDなどの映像装置において,視線が特定方向に向いたときにフレームレートを故意に低下させて注意を引き,視線誘導させることができないか,という着想を得た.これらの結果を踏まえ,今後の研究課題として探究したい. 2.映像の収縮歪みによる没入感の提示:映像の描画面を左右に移動したり,拡大縮小したりすることによって,視線誘導だけでなく没入感を与えることができないか,という検討をおこなった.没入型ディスプレイでは,描画面の移動により没入感が高まるものの,酔いなどの違和感を呈することがわかった.そこで,描画面の移動を悟られにくいよう,HMDで同様の検証をおこなったところ,映像の微小移動や歪みは没入感に影響を与えていないことがわかった.さらに,映像観察中の重心動揺を計測したところ,映像の移動量との相関がみられなかった.しかしながら,微小移動する描画面を視線で追う際に,頭部の回転運動が誘発されることが明らかとなった.
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