研究課題/領域番号 |
18K11444
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
鈴木 聡 東京電機大学, 未来科学部, 教授 (20328537)
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研究分担者 |
雨宮 由紀枝 日本女子体育大学, 体育学部, 教授 (40366802)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 行動識別 / 粗大運動 / 深層学習 / 運動発育 / 特別支援教育 |
研究実績の概要 |
子どもの運動機能アセスメントの自動化・支援を可能とする行動識別(Activity Recognition: AR)技術の構築と実践法に関し、項目A)粗大運動識別アルゴリズムのロバスト化〈識別機能の向上〉と項目B)運動発育アセスメントのAI化〈評価機能の実現〉を具体目標として、粗大運動AR[Phase-I]、アセスメントAR[Phase-Ⅱ]、運動発育AI[Phase-Ⅲ]の確立に段階的に取り組む研究を実施した。 本年度(2年目)は、粗大運動アセスメント手法TGMD-3に準じて、前年度に実施した身体運動データの現場計測・収集と分析【細目A1】を継続。その蓄積データ(延べ210名・累積約240時間分)を用いて、粗大運動ARの深層学習を用いた識別精度の向上【細目A2】を図った。計測データ中の外れ値の自動除去(一般化カルバック・ライブラ密度比検定法[SII2020,SI2019で発表])、深層学習ネットワーク構成(LSTM、RNN、CNN)の適正化、入力データ変換・拡張法(疑似RGB画像、時系列運動画像化)の改良により、最終的にTGMD-3の13種類の粗大運動を99.8%[IECON2019]の精度で識別できPhase-Iは達成できた。加えて、運動評価を行う深層学習AIを設計し、アセスメント判定組合せ135通りに対する自動AI化を試み、判定精度99.7%を達成し[SII2020]、概ね当初計画を遂行できた。 以上の成果は国際会議・学会等で発表、優秀講演賞1件受賞するなど一定の評価を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度やや遅延していた進捗状況は概ね回復できた。具体的には、計測データ前処理法の確立により自動処理化が進められて、データベースの整備・構築作業を促進でき、さらに本研究対象である粗大運動に特化した深層学習に適したデータ拡張法の確立で行動種別並びに評価精度を大幅に向上できた。なお、研究進展に伴い判明した事項を加味し、いくつかの細目は当初方針を修正して実施した。以下詳細を示す。 【細目A1】"行動識別機の中核となる発達数理モデルの基礎構築"については、当初予定の"機械学習・制御同定アプローチ"から"深層学習・CNN可視化アプローチ"に変更して最終目標の運動発育AIの実現を目指すこととした。その理由は発達数理モデル導出に先立ち、識別や判定の根拠や理由の見える化が必要となり、本研究に関わる異種分野の研究関係者間で視認・理解容易な情報提示手段が強く求められる局面が多かったからである。一方、【細目A2】"粗大運動AR開発"については、TGMD-3の13種の粗大運動識別(識別率99.8%)も評価判定(成功率99.7%)も極めて高い精度で実現でき、達成できた。 細目B系列に関しては、【細目B1】"教師データセットの整備"は、元となる粗大運動評価者の人数は少ないながらも現地測定データに対してほぼ実施でき、【細目B2】"アセスメントAR構築"の基盤構築は達成できた。ただし、現時点では、全アセスメント判定組合わせ200通り中の約7割のケースに対する判定実装であるため、次年度では転移学習等を用いて全組合せに対応可能なアセスメントAR構築に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
発達数理モデル構築【細目A1】に関しては、粗大/アセスメントARに用いた深層学習モデルに種々のCNN可視化を施し、識別/評価理由の見える化法を開発する。BackPropagation法とClass Activation Mapping法の亜流・発展版の複数のCNN可視化候補を本年度検討したので、来年度はこれら候補からの絞込みを、粗大運動評価者らに対する統計的主観調査を踏まえて実施し、最終的に運動発育AIに適した手法を導いて、発達判定に応用可能な数理モデルの構築を図る。 来年度実施予定の【細目A3】"運動評価と指導情報の提示までを自動で行う運動発育AI構築"に関しては、粗大/アセスメントARを実装したアプリ開発を行う。本アプリ開発は当初予定していた現地での長期計測実験の次善策であり、本研究者らが従来実施していた現地出向計測がコロナ禍の影響で忌避されるため、現地保育スタッフのみで準長期的な計測が実現可能かを試みるものである。加えて、同アプリ端末をクライアントとしたサーバ運用システムを構築し、データ収集と解析作業が当初想定程度に進捗できるよう尽力する。 本粗大運動/アセスメントARのアプリ・サーバ運用が軌道に載ったならば、上記【細目A1】の識別/評価理由の見える化法の機能を追加実装して、運動指導まで自動的に示す運動発育AI【細目A3】を試作し、"同AIを用いた運動指導の効果の保育現場での検証"【細目B3】を行う。以上、知識情報学と特別支援教育学の双方の観点から本研究を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】当初導入予定の深層学習計算関連部品の国内在庫不足に伴う計算機システムの再々検討による追加購入の見送り、ならびに天災による学会出張中止(台風による航空便運休によるキャンセル、新型コロナによる学会自体の開催中止)による学会発表出張旅費の縮小のため。
【使用計画】当初計画していた設備備品費関連は、機能・実施内容的にも本質的に同等である運動発育AI構築に関わるアプリ開発費に、繰越額を加えて充てる。また、今後の学会や会議は、新型コロナの影響で遠隔・仮想会議化が進み、旅費・参加費の減少が見込まれることから、当初予定の学会関係予算の一部もアプリ開発費に配分する。
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