本年度は、人間による価値判断をベイズ・逆ベイズ推論を用いて分析する研究を行う計画であったが、新型コロナ感染症の影響で困難となったため、エージェントシミュレーションによる研究をより深める方向に修正した。昨年度までの研究成果から、市場モデルとして、ゼロインテリジェンス・エージェントのダブルオークションモデルを採用し、非同期的時間概念による相互作用を採用する方針を固め、さらにその課題を明らかにすることができた。オークションにおける確率推論は、落札価格を決定することにつながる参加者間の価値付けの分布を推測するモデルとして従来から研究されている。本研究では、ゼロインテリジェンス・エージェントの「ゼロ」が意味するランダムなプライベート価値の予測に、確率推論モデルを適用し、その結果を考察することで、提案推論モデルである、ベイズ・逆ベイズ推論のエージェントモデルへの実装を行うことができた。経済的な意志決定に関わる神経科学的なモデルは、強化学習的な空間探索のモデルが有効な理論として用いられている。もし仮にモデルが正しいと仮定すると、空間探索のパラメータ調整が必要となり、そのような調整を実際の人はどのように行っているのか、という疑問遭遇する。これに対して本研究では、その探索を仮設の最適化だけではなく、仮説そのものを生成するモデルを導入することで、探索範囲(ここでは仮説の尤度関数(確率分布モデル)の勾配に相当する)の再定義を行いながら探索する、完結したモデルとして定義することができると考える。本年度の研究成果によって、実際に人間が参加する仮想オークション実験において、ベイズ逆ベイズモデルが効果的であるという仮説を立てるのに有効な結論を得ることができたと考えられる。
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