本研究は、非線形で確率論的なシステムのための時系列解析手法を構築するものであった。過去の研究は、線形で確率論的なシステムと、非線形で決定論的なシステムの対比を軸として、時系列解析が構築されてきていた。そのため、それらの手法をそのまま用いるだけでは、非線形で確率論的なシステムを特徴付けすることはできなかった。 2020年度は、まず、因果律の推定の問題を考えた。複数の時系列データが与えられた時に、背後のダイナミクス(線形か非線形か、決定論的か確率論的か)の前提を確認し、適切な因果律の推定手法を選ぶことで、因果律の推定精度が改善できる可能性があることを数値実験によって確認した。 同定した性質を利用した数理モデル化の応用の例として、2020年になって深刻な社会問題になった新型コロナウイルスの感染伝播を取り上げることにした。当初の新型コロナウイルスの日本国内の感染者数が、非線形で確率論的な対象であると言えるという予備的な結果を得ていた。この予備的な結果に基づき、新型コロナウイルスの伝播が、各日に確率論的に決まる接触ネットワークに支配されるとする数理モデルも構築した。この数理モデルでは、人と人の接触のデータがあれば、感染症の伝播が単純な形で記述できる。この数理モデルを用いると、1日に会える人数の上限を計算によって求めることができる。例えば、2020年初頭の中国の状況を仮定できるとすると、感染を押さえ込みながら1日に会える人数の上限は、7人以下であることがわかった。 加えて、為替市場のデータを、マーク付き点過程データとして解析してみた。そうしたところ、マーク付き点過程データとして為替市場を見てみても、そのリカレンスプロット上の再帰三角形の種類の数は、指数関数的よりも速く増加する傾向にあり、確率論的であろうという結論に至った。
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