研究課題/領域番号 |
18K11462
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤原 直哉 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (00637449)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 複雑ネットワーク / 数理モデル / 地理情報科学 / 人流 / 感染症 |
研究実績の概要 |
GPS などの位置情報データを利用して、人々の流動を介した地域間相互作用の特徴を、動的ネットワークとして明らかにするための基盤を構築するという、本研究の目的を実現するために、2019年度は下記の研究を実施した。 年単位の時間にわたる全国規模のジオタグ付きツイートデータを用いた解析を行った。まず、人々の移動のネットワークにおいて、推定された居住地と移動先の間にリンクを定義するという、新たな集計方法を提案した。この新たな集計方法に基づいて都市圏においてコミュニティ検出を行った。GPSデータでは異なる集計方法で地理的に連結したコミュニティが検出されることが知られていたが、ジオタグ付きツイートデータを用いても、いずれの集計方法によっても地理的に連結したコミュニティが得られることを確認した。これらの結果は共著者として執筆に参加した書籍の中の1章としてまとめられた。次に、集計したツイートデータにおいて、接触ネットワークを構成し、連結成分のサイズ分布がべき則に従うことを確認した。以上のように、ジオタグ付きツイートデータにおいて、全国規模でフラクタル構造が観測されることを明らかにした。 また、GPSデータにおける人々の相互作用のネットワークについて、都市の人口増加に対して感染者数が極端に増えないよう、例えば、自宅付近に滞在していると推定された人が訪問者と接触しないようにする、など、感染症の数理モデルとして現実的な状況を検討した。以上の検討に基づき、接触ネットワークの作成に着手した。 人口の空間分布を都市の形成の数理モデルによって説明するために、新経済地理学において頻繁に用いられる、ミクロ的基礎付けを持っている、Melitzモデルなどにおいて、フラクタル構造を表現できる可能性について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GPSデータのメッシュ集計の方法の検討に時間を要した。感染症拡大を詳細に検討を行った結果、集計方法や自宅滞在と推定されるレコードの取扱いなど、集計時に考慮すべき点が増えた。これらの検討に時間を要し、大規模なGPSデータを用いた集計まで至ることができなかったが、その一方で研究開始時に想定していたよりもモデルの精度が向上できると期待される。 次に、利用するデータセットの問題が挙げられる。当初の計画ではGPSデータに加えて通話履歴(Call Detailed Records)も利用することを計画していたが、データを利用することが困難な情勢となった。一方で、ジオタグ付きツイートのように、無料で利用可能なGPSデータが利用可能であり、このようなデータを利用して研究ができた。これは当初の計画にはなかったが、研究の幅を広げることができた。 2019年度末にデータ集計に向けた研究打ち合わせを行い、データ集計を開始する予定であったが、新型コロナウイルス拡大の問題を受けて研究の遅延と研究計画の大幅な見直しを迫られる結果となった。 空間経済学の理論モデルの検討においては、一部のモデルがフラクタル構造を出現させる可能性が示唆される結果を得たのは当初予想していなかった展開であったが、その検討に時間を費やす結果ともなった。 以上のように、いくつかの要因によって遅れが生じているが、同時に、予想外の進展も多くみられている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス拡大の影響により研究の遅延が懸念される状況である。国内外の学会への参加や遠方の研究者との対面での打ち合わせが困難となるなど、研究進捗を妨げる要素が懸念される一方で、研究遂行中に実際に世界規模の感染拡大を経験したことが、本研究においては予想外の進展をもたらす可能性がある。例えば、研究開始時には実際の感染拡大の疫学データとの比較は必ずしも想定していなかったが、コロナウイルス拡大によって、感染状況の実データの公開が世界規模で進み、人流と比較できる可能性が現れた。また、行動自粛などによる人流の大きな変化を経験することとなった。リアルタイムの人流変動のモニターなど、世界的に研究が急激に進展し、新たな展開を考慮できる状況になったと考えられる。 当初の予定通り、本研究では、接触ネットワークの分析を中心に進めるが、例えば接触以外の人流特徴量の変化や、それらの特徴量と、実効再生産数などの感染拡大の特徴量との相関を調べるなど、当初の研究計画では予定されなかった研究の実行も視野に入れつつ、人流の法則性を明らかにして研究の深化を目指す。感染拡大の状況も適宜踏まえながら、実際の局面で求められる分析を、柔軟に研究計画を変更しながら推進するものとする。 新型コロナウイルスの拡大に伴い、感染拡大下での人流解析が喫緊の課題となった。研究を進めることで社会貢献を目指していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ分析のための計算が想定よりも小規模にとどまっており、新たな計算機が必要となっていないなど、物品費が少額となっている、人件費も想定ほど必要となっていない。一方、国際会議での発表や研究打ち合わせを頻繁に行っていることなどにより、旅費は想定よりも多くなっている。今後は、物品購入費などでの支出を行う予定だが、研究遂行や論文執筆を加速するための予算投入など、研究の完成を優先して、柔軟に予算を使用する予定である。
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