研究課題/領域番号 |
18K11467
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 麗璽 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (20362296)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 進化的新奇性 / 仮想生物進化 / 資源共有問題 / 鳥類の歌行動 / 人工生命 |
研究実績の概要 |
本研究は,仮想生物進化環境を用いて新奇な個体間関係の創発と進化の仕組みを明らかにし,さらに,その知見を鳥類の個体間相互作用を題材とした生態理解へ応用することを目的としている. 初年度である今年度は,3次元空間において複数のブロックから構成される複数の仮想生物が共存し,相互作用しながら進化する環境の土台を構築した.具体的には,各個体は,ネットワークで構成される遺伝子を持ち,これが形態(ブロックの形状と接続)を決める発生過程を表現する.さらに,遺伝子は各ブロックにおいて接触や8方向からの音量,資源ブロックの方向・距離の入力を受けるセンサーとそれに基づいてブロック同士の接続に力を加えるアクチュエータをつなぐニューラルネットワークも決定しており,全体として形態と行動パターンを決定している.ブロックは地面や直接接続していない自他のブロックと接触すると音を発し,その音量は減衰しながら自他のセンサーへの入力となる.特に,新奇な個体間関係の創発を議論するため,競合資源を表現するブロックを認識する機能と,個体間相互作用を促進するための物体衝突に基づく音の発生機能を盛り込んだ.環境の所期の動作(進化)を確認するために,いくつかの実験を行ったところ,他個体が発する音を手掛かりに集合するタスクにおいて,数個のブロックを使って音を出して他個体を集めるリーダとそれに従うフォロワーに類する関係などが創発した.以上から,新奇な個体関係の創発と進化を議論するための環境を整えることができた.また,ロボット聴覚技術に基づく鳥類の行動観測では,プレイバック実験の条件に応じた個体の行動傾向を定量的に把握可能なことや,複数個体の行動傾向の違いも議論可能なデータが収集可能であることがわかった.また,個体間関係における行動可塑性進化に関する一般的知見を得るため,関連する人工生命モデルによる進化実験と分析も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次の点から順調に進展しているといえる.まず,3次元空間において複数のブロックから構成される複数の仮想生物が共存し,相互作用しながら進化する環境の土台を構築することができた.他個体が発する音を手掛かりに集合するタスクを用いて実験したところ,数個のブロックを使って音を出して他個体を集めるリーダとそれに従うフォロワーに類する関係が創発した.また,資源に接近するタスクにおいても,進化の過程で資源に徐々に近づく行動が進化することを確認した.以上から,資源競合問題において,新奇な個体関係の創発と進化を議論するための環境を整えることができた. 加えて,ロボット聴覚技術に基づく鳥類の行動観測では,米国加州の森林におけるホシワキアカトウヒチョウに対して同種の鳴き声をスピーカで再生するプレイバック実験を行った.再生する音声をかえて実験を行い,個体がいつどの歌をどこで歌ったかを2つのマイクアレイを用いて二次元平面上の歌の分布として表現することができた.これらから,定量的に行動傾向が把握可能なことや,複数個体の行動傾向の違いも議論可能なデータが収集可能であることがわかった. 以上を総合し,仮想生物進化実験と鳥類生態観測の両面から個体間相互作用を理解する土台を構築できたといえる.
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今後の研究の推進方策 |
前年度に開発した仮想生物進化環境を用いて,新奇な個体間関係の創発と進化に関する実験を本格的に進める.具体的には,資源競合の多寡を資源の数で表現し,様々競合条件で実験を網羅的に行うことで,集団レベルの行動多様性と新奇な個体間関係の進化傾向を明らかにする.例えば,資源を頑固に守る個体や,日和見的に他個体との競合を避けるような傾向が生じるかを調べる.この際,自由度の極めて高い形態の構造や行動パターンの進化を議論するには,そもそもどこに注目して形質とみなし,計測・分類するかが大きな問題である.そこで,機械学習における次元圧縮法等を用いてデータの特徴の抽出を試行する.鳥類の行動多様性については,複数個体の観測データの蓄積を進めると同時に,歌行動の時間的重複,歌の種類や移動パターンからの行動可塑性・多様性の定量化を検討する.モデルから得られる知見と生態観測から得られる知見の行動多様性のレベルからの比較も検討する.
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