研究実績の概要 |
神経回路の興奮性と抑制性のニューロンは、その数と強度が均衡し(興奮抑制均衡)、多くの神経機能を担保している。神経回路が処理する入力は、多くの場合において時間依存であり非定常である。また、興奮性シナプスは STDP 学習により強度を増減する。このような動的な系においては、興奮神経均衡をあらかじめ組み込むことはできず、動的かつ自己組織的に獲得されねばならない。Gestner らは、抑制性シナプスが STDP 学習を持つことにより、興奮抑制均衡が動的かつ自己組織的に獲得されることが明らかとした (Vogels, Science,2011)。抑制性シナプスの可塑性は長らく否定されてきたが、近年その存在が確認されている (Holmgren, Journal of Neuroscience, 2001; Woodin, Neuron, 2003; Haas, Journal of Physiology, 2006)。そこで、興奮性だけでなく、抑制性にもSTDP 学習を持つ神経回路では、興奮抑制均衡が自律的に獲得され、情報処理の機能向上が見込めるのではないだろうか。またそのとき、最適なシナプス学習関数はどのようなものであろうか。さらに、均衡にとっての最適な学習関数と、情報処理にとっての最適な学習関数は同一であろうか。そこで本研究は、興奮・抑制シナプスにSTDP学習則を持つ相互結合型神経回路において、均衡とその情報処理的観点から、最適なシナプス学習関数を導出し、この問いに答える。 研究は次の手順で行われる: (1) 興奮・抑制ニューロンからなる神経回路を計算機上に実装する。 (2) 様々な関数形のSTDP学習関数のもとでの興奮抑制均衡構造を調べる。 (3) 学習関数による情報変換機能の修飾を検証し、情報処理機能における最適な学習関数を導く。 現在、(3)の研究課題を実施中である。
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