本研究の目的は、脳機能計測を通じて選好・嗜好に関する脳活動情報を読み取るためのバイオマーカの探索を行い、それを利用した簡易的に選好・嗜好を計測する手法を確立することを目的とした。 本年度は、新たに実験参加者9名に対して選好度評価課題・選好二肢選択課題の2種類の実験を行った。まず、2種類の課題中の脳活動データを用いて脳活動増加部位の推定を行った。結果、嗜好度評価課題では左右の紡錘状回及び左右の前部帯状皮質で有意な活動の増加が確認された。また、嗜好選択課題においては右側島皮質、左右の紡錘状回、楔前部で有意な活動の増加が認められた。続いてこれらの脳部位と、主観的価値評価・選択に関与する神経基盤とされているBrain Valuation System(BVS)に該当する脳部位を関心領域としてfMRI信号を抽出し、Sparse Ordinal Logistic Regression(SOLR)を用いた機械学習による選好度評価値の識別を行なった。 選好度評価値を5段階のラベルに分割し識別を行った結果、嗜好度評価課題ではチャンスレベルである20%を有意に超える30%の精度で5段階の嗜好度を推定することに成功した。また、嗜好選択課題ではチャンスレベルである50%を有意に超え、平均して60%の精度で嗜好選択を予測することができた。加えて、本研究により活動増加が認められた脳部位から抽出したデータのみ、及びBVSから抽出したデータのみを用いて上述同様の解析・識別を行った結果、いずれの識別においてもチャンスレベルとの有意差は認められなかった。 この結果から、本年度は脳部位において選好度評価および選好選択場面において選好度を表象するバイオマーカの候補となる脳部位の同定、および識別可能性を示すことができた。
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