研究課題/領域番号 |
18K11501
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
吉田 宏昭 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (40456497)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 感性工学 / 数値解析 / 有限要素解析 / 寝心地 / 寝具 / 感性計測 / 脳波計測 |
研究実績の概要 |
人生の3分の1を寝て過ごしており、適した寝具で寝ることが重要である。人間が寝具に横たわると、寝た際に生体内に生じる変形とそれに伴う応力を寝心地として感知している。そこで、生体内応力を推定可能な数値解析を用いて寝具の寝心地に関する研究を実施することにした。しかし、数値解析の結果だけでは寝具の寝心地を推定することはできず、被験者実験の結果と比較し、数値解析で得られた応力の意味などを検討する必要がある。そこで、被験者を用いた睡眠実験も並行して実施した。 また、日本における布団打ちには「腰を硬く打て」という教えがあり、敷布団の臀部周辺を厚くすると良いということである。有限要素解析などを通して、臀部周辺のみを厚くして硬くすると、寝心地が良くなる傾向にあることが分かってきた。しかし、どの程度臀部周辺を厚くすれば良いのか不明である。 そこで、敷布団の臀部周辺の嵩高さの違いによって、寝心地や睡眠の質がどのように変化するのか、大学生8名を対象に調査した。市販の敷き布団を用いて、臀部周辺の嵩高さを3段階に設定し、敷布団の上に横になってもらった後に、7段階評定の官能評価を行った。評価結果から、臀部周辺が嵩高いと腰に違和感があり、予想通りの結果にはならなかった。同時に寝た際の体圧分布を測定したところ、嵩高いと寝具との接触面積が増加していた。敷布団の臀部周辺が嵩高いと、寝具への沈み込みを抑えるだけでなく、身体の接触面積を増加させる役割があると推測された。さらに、同じ寝具条件で、終夜睡眠実験により睡眠の質についても調査した。被験者は2名とし、パッチ式脳波センサーを用いて、睡眠中の脳波を計測した。脳波測定の結果、臀部周辺が嵩高いと、入眠するまでの時間が長く、睡眠時間も短い傾向があった。現状では、嵩高い敷布団は、睡眠の質を低下させると想定される。今後は、もう少し嵩高さを低くし再実験する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 ・解析の進捗状況:数値解析手法のひとつである有限要素法を用いて研究を実施している。有限要素モデルの構築は計画通りに実施できている。 ・実験の進捗状況:被験者を用いた被験者実験は、当初の計画よりも早めに実施できている。特に、被験者数は少ないものの、脳波計測を用いて睡眠実験も実施できた。実験の概要は以下である。20代大学生8名(女性4名、男性4名)を対象に、臀部の嵩高さの違いによって、寝心地などが異なるのか調査した。市販の敷き布団を用いて、平面(0mm・基準)、中程度の高さ(10mm)、高程度の高さ(20mm)の3条件とした。敷布団を見ずに敷布団の上に横になってもらい、アンケートを用いて官能評価を行った。最後に体圧も測定した。官能評価の結果から、男女ともに、臀部周辺の嵩高さを上げると、腰に違和感があり、寝返りもしにくい傾向だった。体圧測定の結果から、嵩高くすると、臀部に圧力がかからない分、接触面積が増加していた。敷布団の臀部周辺を高くすると、臀部の沈み込みを抑えるだけでなく、身体の接触面積を増加させる役割もあると推測される。さらに、終夜睡眠実験により、睡眠の質についても調査した。被験者2名に対し、脳波センサーを用いて、睡眠中の脳波を計測した。嵩高くする(+10mm)と、入眠するまでの時間が長く、睡眠時間も短い傾向であった。よって現状では、嵩高い敷布団は、睡眠の質を低下させる傾向だった。今後、臀部周辺の嵩高さをもう少し低くし、再実験を行う。
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今後の研究の推進方策 |
・2020年度も継続して、被験者の寝姿勢を計測可能な寝姿勢計測装置を用いて、被験者の体型を模した人体有限要素モデルを構築し、生体内に発生する応力について考察していく。 ・2019年度は、臀部周辺を嵩高くした敷き布団を用いて、寝心地と睡眠の質について調査したが、予想通りの結果にはならなかったので、2020年度は、嵩高さの条件を増やし、再実験を行う。また、睡眠中の脳波計測により睡眠の質を評価したが、2020年度は被験者数を増やしていく。 ・そして、最終的には、解析結果と実験結果の関連を検討し、生体内に生じている応力と寝具の寝心地との関係を検討し、寝心地シミュレータを構築していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末、福岡工業大学で開催予定であった第15回日本感性工学会春季大会にて研究成果を発表しようと考えていたが、新型コロナウィルスの影響で、開催が中止となった。そのため、旅費などの出費がなくなり、その額が余剰金となり、次年度使用額が生じてしまった。この次年度使用額は、寝心地評価時に必要な寝具などの物品費として使用する予定である。令和2年度請求額は当初の予定通り、物品費、旅費、謝金などとして使用する計画である。
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