研究課題/領域番号 |
18K11503
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
長 篤志 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (90294652)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 立体感 / 視覚ノイズ / 固視微動 / 臨場感 |
研究実績の概要 |
本研究では,ディスプレイや写真など2次元画像に対して固視微動を模した動的ノイズを付加することにより観察者の知覚する立体感を向上させる技術を確立することを目的としている.これまでの成果より,立体感の評価方法の困難さを軽減する実験方法が必要であること,観察者が立体感を知覚するために最適なノイズ強度に調整することを可能とすること,観察者が知覚する立体感を定量化すること,ノイズの周波数特性の違いによる立体感向上効果の違いを明らかにすること,これらが課題として挙げられていた.そこで令和2年度は以下の研究をおこなった.1)昨年度作成した写真へプロジェクションマッピングをする装置を用いて,より容易に観察者が立体感を評価できる実験環境と実験方法を開発した.この実験環境と実験方法を用いて3次元空間にある立体を標準刺激として用いることができ,2次元画像に対する立体感をこれまでより容易に評価できることが確認された.2)前述の実験装置と実験方法を用いて,観察者毎に最適なノイズ強度を測定する実験をおこなった.実験の結果,すべての観察者において最適なノイズ強度を明らかにした.3)前述の実験装置と実験方法を用いて,ノイズを付加しない画像を観察したときと,観察者毎に最適化したノイズ強度に調節したノイズを付加した画像を観察したときの立体感を定量化する実験をおこなった.その結果,ノイズを付加することによって,最低でも立体感向上率が40%,最大550%,平均99%の効果があることが明らかになった.4)ノイズの周波数特性を変えた2種類の乱数系列による立体感向上効果の違いを調べる実験をおこなった.最適化したノイズ強度を用いた場合,今回対象にした画像に対してはホワイトノイズ特性のノイズ刺激の方が効果の高いことが明らかになった.これは,これまでの研究で仮説であった奥行き手掛かりと効果的な周波数特性との関連性を裏付けた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は,これまでの研究で課題としていた事項を一つずつ解決することができた.特に実験環境と実験方法の改良において大変成果を得ることができた.これによって,観察者の負担を軽減でき,なおかつ観察者に最適化したノイズ強度の刺激をもちいたときの立体感向上効果を定量化することができた.しかし,当初の計画におけるすべての課題を解決したわけではない.ノイズの周波数特性と奥行き手掛かりとの関連性については,その一端が明らかになったことにとどまっていた.また,ノイズによる不快感を低減する方法については着手することができなかった.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,当初の到達目標に至るため研究期間を延長し,以下の2つの研究課題をおこなう方針である.1)画像特徴に合わせた視覚ノイズの周波数特性の最適化.令和2年度の成果によって,観察者毎に最適なノイズ強度による立体感向上効果の定量化が可能となった.これによって画像特徴と視覚ノイズの周波数特性との関係性が定量的に測定できるようになったことを意味する.そこで令和3年度は,様々な絵画的奥行き手がかりを持つ立体物とその画像を用意することにより,これまでに開発した同様の実験環境をもちいて,画像の特徴に合わせた視覚ノイズの周波数特性を最適化することが可能であると考えられる.2)ノイズの不快感低減のためのノイズ間欠提示法の確立.令和2年度の研究成果によって観察者毎にノイズ強度を最適化することが可能になった.それに伴って観察者が感じるノイズへの違和感は同時にこれまでより低減されていた.しかし,このノイズへの違和感はできる限り低減されることが望ましい.そこで,令和3年度は観察者毎に最適なノイズ強度を用いた上で,ノイズの間欠提示時間と立体感の関係性を明らかにする実験をおこない,最適なノイズ間欠提示時間を示す.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は,新型コロナウィルスの影響により人を対象とした実験を実施することが大変難しくなった.年度当初は実験環境の構築とごく少数による実験に留まっていた.年度の中盤以降は感染防止策の目安などもできてきたため,十分な感染対策をした上で,日頃の行動の明らかになっている実験参加者を対象に実験を開始することができた.しかしながら,一般に実験参加者を応募することをせず,感染対策ができる範囲における実験のみをおこなった.一方,学会発表や国際会議などが年度当初,中止になることが多かった.年度中盤以降は学会が再開され始めたがすべてオンラインでの開催であった.以上のような要因により,年度初めに予定した研究課題のすべては実施することができなかった.また,大規模な実験参加者を募っておらず実験参加者への謝金は発生しなかった.さらには,予定していた学会参加にともなう旅費も発生しなかった.そこで,本研究課題は令和3年に継続することとし,予算を繰り越すことを決定した. 令和3年度は,まず新型コロナウィルス感染を予防しつつ実験を行うため必要な物品を購入する.具体的には実験装置となるディスプレイモニタとPCを複数台用意し,一カ所に人が集まること無く実験が実施できる環境を整えるために使用する.また,複数の実験を行うため実験参加者への謝金と消耗品に使用する予定である.
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