研究課題/領域番号 |
18K11518
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山野辺 貴信 北海道大学, 医学研究院, 助教 (00322800)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 確率的神経細胞モデル / ノイズ / 線形作用素 |
研究実績の概要 |
神経回路理論によれば素子の「出力関数」の特性に依存し、情報キャリアが決まる。スパイクは神経細胞が過渡状態にあるときに生じるため、スパイク生成は過去の神経活動に依存することが報告されている。また、神経細胞は、拡散過程で近似されるイオンチャネルノイズ、シナプス小胞の自発的放出によるジャンプノイズなどを持つ確率的な挙動をする素子でもある。これらのノイズにより神経細胞の応答特性が変わることも予想される。そこで、各神経細胞において過渡応答特性とノイズの影響を反映した「出力関数」の特性を実験的に求めることが、情報キャリアを解明するために必要であると考えられる。実験で神経細胞の「出力関数」を調べる方法を構築するため、確率的神経細胞モデルの発火活動がどのような確率過程であるか知ることが重要である。特に、確率的神経細胞モデルの性質を決める推移確率密度の計算およびその誤差評価、さらに推移確率密度を用い、確率的神経細胞モデルへの入力がスパイク生起時刻列へどう変換されるかその構造を明らかにする必要がある。これまで、我々は確率的神経細胞モデルの統計的大域挙動を表す線形作用素を構築してきた。本年度はこの線形作用素がスパイク生起時刻列を決める確率過程にどう結びつくのか調べた。この過程で次元の呪いを避け、スパイク生起時刻列を決める確率過程の新しい計算方法候補を導出することができた。本年度は、この計算方法候補とそれに必要な推移確率密度の高次漸近展開自動化プログラム、漸近展開による推移確率密度とモンテカルロシミュレーションによる推移確率密度の評価に関し進展があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
1.スパイクはほぼ同じ形状をしているため、その生起時刻列により情報が運ばれていると考えられる。確率的神経細胞モデルへの入力がスパイク生起時刻列に変換されるその数学的構造を調べることは、スパイク列解析の統計モデルを構築する上で必要である。神経細胞モデルがリミットサイクルを持つ場合は、回転数が定義でき、我々はこれを用い上記の構造を調べてきた。本年度はさらに一般の場合についてスパイク生起時刻列を決める確率過程を定式化する方法を研究した。 2.これまで確率的Stuart-Landau方程式のように、比較的扱いやすい数理モデルを用いその挙動を調べてきた。今年度は、さらに、一般の神経細胞モデルの入出力特性を調べるため、確率項を加えた確率的FitzHugh-Nagumoモデルおよび確率的Morris-Lecarモデルを用いた。確率的Stuart-Landau方程式にパルス入力が入る場合、推移確率密度の漸近展開の第一項であるガウス関数を用いた近似でも十分にその統計的大域挙動を捉えられた。しかし、確率的FitzHugh-Nagumoモデルの場合は、モデルの閾値付近のダイナミクスが原因で、推移確率密度の高次の漸近展開を用いなければ、十分な精度の近似が得られないことが分かった。この計算を行うための数式処理プログラム、数値計算プログラムを整備した。 3.漸近展開による推移確率密度の近似精度を最小二乗誤差で定量化するため、漸近展開による推移確率密度と、モンテカルロシミュレーションによるものの密度比が必要になる。各確率密度を推定し最小二乗誤差を求めるのは計算が困難になるので、回避する必要がある。そこで我々は杉山(統計数理、2010)らが提案した、個々の確率密度の推定を回避し密度比を推定する方法を用い、漸近展開から得られる推移確率密度の精度を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
神経細胞モデルにリミットサイクルがない場合について、入力とスパイク生起時刻列との関係を定式化したが、この定式化を用いれば次元の呪いを回避できる可能性があるため、この式の数理構造を調べるのを第一の目標とする。このために必要な数式処理プログラム、数値計算プログラムを作成したが、これらを用い確率的神経細胞モデルの推移確率密度を近似し、密度比を用いた推移確率密度の詳細な評価をし、スパイク生起時刻列を記述する確率過程の具体的な計算を行う。この際、拡散過程で近似されるイオンチャネルノイズ、シナプス小胞の自発的放出によるジャンプノイズなどが与える影響について調べる。これまで提案されてきたイオンチャネルノイズモデルは多岐にわたり、再考の余地がある。この点についても研究を行う。遅れを取り戻すためにも、得られた結果を速やかに論文として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症のため、国内学会、国際学会での発表がオンラインとなった。そのための旅費の支出がなくなった。同感染症に対応するため、授業準備に多くの時間を投入する必要が生じた。これらが研究進展の遅れを生じさせ、結果として次年度使用額が生じた。次年度も学会のオンライン開催が予想されるので、旅費の分を、オープンアクセス誌の論文掲載料に充て、成果の普及を図る。さらに次年度、研究の遅れを取り戻す過程で支出が生じるので次年度使用額をそれに充てる。
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