神経系においてスパイク列により情報が運ばれる場合があるが、どの統計量が情報キャリアか不明である。神経回路網理論によれば構成素子への入力に回路網構造が反映され、素子の活性化関数に神経回路モデルの情報キャリアが依存する。イオンチャネルノイズ、シナプスノイズなど神経細胞はノイズを持つ非線形の素子である。イオンチャネルではその確率的開閉のためノイズが生じる。このノイズをどのような確率過程で近似するかは、神経細胞モデルの式のどこに、どのようなノイズを加えれば良いのかという問題と関連しており、神経細胞モデルの挙動の解析に必要な情報である。神経細胞に存在する電位依存性イオンチャネルはその挙動がマルコフ連鎖を用い表される。このイオンチャネルノイズが拡散過程で近似されることが他の研究者により示された。しかし、この近似ではモデルが生理学的妥当性を失ってしまう場合があるという欠点があった。我々はこの欠点を克服するための研究を行った。 確率的神経細胞モデルの入出力特性を調べるため統計的大域挙動を表す線形作用素を構築してきた。我々が導入した線形作用素は有限次元の行列で近似できる。この近似行列の固有値、固有ベクトルを求めれば確率的神経細胞モデルの統計的大域挙動がわかる。しかし、確率的神経細胞モデルによっては推移確率密度関数の近似計算が困難になることがわかり、線形作用素の構築が難しい場合がある。推移確率密度関数の近似計算が困難な確率的神経細胞モデルに対しても、近似計算を可能にするプログラムの開発にあたった。具体的には推移確率密度関数の近似の計算には、数百の式からなる常微分方程式系を解く必要があるが、これを計算する数式処理プログラムを構築した。
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