研究課題/領域番号 |
18K11536
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山岸 賢司 日本大学, 工学部, 准教授 (90460021)
|
研究分担者 |
坂本 泰一 千葉工業大学, 先進工学部, 教授 (40383369)
石川 岳志 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (80505909)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | RNAアプタマー / 分子シミュレーション / 計算化学 / フラグメント分子軌道計算 / 分子動力学計算 / 核酸 |
研究実績の概要 |
RNAアプタマーは抗体に代わる次世代技術として、医薬品分野や診断薬分野などで注目されているが、実用化に向けた分子設計には多くの時間と費用が必要である。本課題は、RNAアプタマーが標的分子をどのように認識し結合するのか、その分子認識メカニズムを計算化学から明らかにすることを目指している。本課題により、論理的根拠に基づいたRNAアプタマーの設計が可能になり、RNAアプタマーの開発効率を飛躍的に向上させられる。 当該年度は、前年度に構築した修飾核酸に対する分子動力学(MD)計算の解析プロトコルを用いて、種々の修飾RNAアプタマーに対してMD計算を実行し、塩基配列の違いや化学修飾がRNAアプタマーの動的な構造変化へ与える影響について考察した。さらに、当該年度では、塩基配列の違いや化学修飾がRNAアプタマーと標的タンパク質との分子間相互作用エネルギーに与える影響について、計算化学および物理化学的な相互作用実験の両面から解析した。量子化学計算に基づくフラグメント分子軌道法を用いて、抗体に特異的に結合できるRNAアプタマー(IgGアプタマー)とその標的分子である抗体との相互作用を解析した結果、RNAアプタマーの7番のヌクレオチドであるグアノシン(G7)はリン酸部位、塩基部位ともに、すべてのヌクレオチドの中で最も強く抗体と相互作用していることを明らかとした。G7のリン酸基とLys340の間に働く静電力は特に強く、IgGアプタマーの結合の駆動力になると示唆される。また、塩基が骨格構造の外側を向いたベースフリップ構造をとるG7の塩基部位は、Arg344の側鎖、およびGly402-Ser403間の主鎖のカルボニル酸素との水素結合、Tyr373の側鎖とのπ-π相互作用、およびGly341とのCH-π相互作用を形成しており、G7のベースフリップ構造は抗体との結合に重要であることを明らかとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、RNAアプタマーが標的分子をどのように認識し結合するのか、その分子認識メカニズムを計算化学から明らかにする。そして、標的分子に対して結合するRNAアプタマーを計算化学から設計する手法を確立することを目指している。 これまでに、抗体に結合するRNAアプタマー(IgGアプタマー)に対して、アプタマーの構造の動的な挙動を解析できる分子動力学計算と、アプタマーと標的タンパク質との分子間相互作用を詳細かつ高精度に解析できる量子化学計算を用いて、RNAアプタマーの分子認識メカニズムについて解析を進めてきた。一方で、熱力学的に解析できる等温滴定型カロリメトリによるIgGアプタマーと抗体との相互作用の測定や高分解能NMR分光計を用いたアプタマーの結合状態についての原子レベルでの解析など、計算化学手法だけでなく実験的な解析も進めている。そして、これらの実験により得られた解析結果と、計算化学により得られた解析結果とを照らし合わせ、計算化学を用いて解析した結果を検証したところ、計算化学を用いて解析した結果は、等温滴定カロリメトリを用いた熱力学的解析、およびNMR法による構造解析の結果といずれも矛盾なく、実験結果を分子論的に説明するものであった。 以上より、計算化学手法を用いてRNAアプタマーの物理化学的な特性を解析する研究基盤を確立できたと考えている。したがって、おおむね順調に進んでいると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、計算化学、およびウェット実験の両面から、抗体に結合するRNAアプタマー(IgGアプタマー)に対して、その塩基配列の違いや化学修飾がRNAアプタマーの動的な構造変化へ与える影響について解析を進めるとともに、塩基配列の違いや化学修飾がRNAアプタマーと標的タンパク質との分子間相互作用エネルギーに与える影響についても解析を行ってきた。次年度も引き続き、修飾や配列の異なる様々なIgGアプタマーに対して同様の解析を進めていくことに加え、IgGアプタマー以外のRNAアプタマーに対しても研究を展開する。これにより、RNAアプタマーが標的分子をどのように認識し結合するのか、その分子認識メカニズムの理解を目指す。 さらに次年度では、上記の研究を通じて解析したRNAアプタマーの構造的な側面とRNAアプタマーと標的分子との分子間相互作用エネルギーの側面の両方から、標的分子に対する結合力の向上に繋がるRNAアプタマーの化学修飾の指標を突き止めていく予定である。そして、標的分子に対してより強く結合するRNAアプタマーの分子設計を試みる。設計した新規RNAアプタマーは実際に化学合成を行い、熱力学的に解析できる等温滴定型カロリメトリによる標的分子との相互作用の測定を行う。そして、実験により得られた相互作用の熱力学パラメータと、計算化学により得られる相互作用エネルギーとを照らし合わせ、計算に基づく分子設計を検証・フィードバックする。また、高分解能NMR分光計によるアプタマーの結合状態についても原子レベルでの解析も引き続き行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の発表のため、いくつかの学会への参加を予定していたが、コロナウイルスの感染拡大により学会が中止となったため、予定していた旅費の執行ができなかった。次年度に開催される学会において、発表に伴う旅費として執行する予定である。一方で、学会が開催されないことも踏まえて、シミュレーションの解析結果を保存するファイルサーバーの増設など研究遂行上必要な消耗品に振り替えることも検討する。
|